運命の巡り合わせ
秦野 蓮
第1話
大人になって気づくことはたくさんある。子供みたいに純粋にはしゃぐことが今では気恥ずかしい。辛い出来事があっても、いつしか自分の感情を押し殺すようになっていた。こうして僕はお酒やタバコに縋り、心をすり減らしながら毎日過ごしていた。僕はどうして自分がこうなったのかも忘れてしまっていた。しかし、ある時を境に僕は変わることができたのだ。
ある時、会社の屋上で僕が一人でタバコを吸っていると、見知らぬ同僚らしき女性に声をかけられた。
「ここは禁煙地ですよ。喫煙所で吸ってください」
彼女は少し微笑みながら優しい物言いで注意をしてきた。僕は彼女の表情に少しドキッとしたが、その感情を押さえ込んでしまったのだ。
「すみません。人がいるところは苦手なんです」
「じゃあ、一緒にここで吸ってしまいましょ」
「話聞いてましたか。人がいるところは苦手なんですよ。第一、どうして注意した本人がここで吸うのですか」
彼女は必死になっている僕を笑った。それが僕と彼女の出会いだった。
それから彼女は僕に付いてくるようになった。
「なんでそんなに付いてくるんだ」
と僕はなんども言うが、
「どうせ一人なんだからいいでしょ」
と彼女は毎回返す。タバコを吸いに行くときも、ご飯を食べるときも毎回だ。
そのうち僕はそんな彼女のことが好きになった。
「僕と付き合ってくれませんか」
「もうずっと付き合ってますよ」
彼女はそう言って、僕と付き合ってくれたのだ。しかし、人が苦手な僕が上手に彼女と付き合えることは難しく、よく彼女を困らせていた。記念日や誕生日を忘れることはなかったが、何をすればいいのか全くわからなかった。
「ごめんな。いつも何もしてあげられなくて」
僕は他のカップルを見るとよく彼女に謝った。
「いいのよ。もう十分恩恵は頂いてるんだもの」
と彼女はいつも言ってくれた。どうして何もしてあげられていないのに、彼女は僕に尽くしてくれるのだろうと考えはじめた。そして、彼女のその献身さや優しさが僕を救ってくれたのだ。そして、いつしか僕たちはお互いのために精進するようになったのだ。
「なんだか変わったね」
「そうか?気のせいなんじゃない」
と、いつも答えるが心の中では彼女に感謝をしている。
“本当にありがとう。君のお陰で生きる理由が見つけられたよ”
そして、僕の実家の近所にある公園のベンチで彼女と桜を眺めている時だった。僕は意を決して彼女に言った、
「なあ、僕と結婚しないか」
すると彼女はすぐに、
「よろこんで」
と笑顔で答えてくれた。
彼女は真っ暗な僕の人生に再び光を照らしてくれた天使だ。そんな彼女に僕は強く惹かれ、子供の頃の自分に再び戻れたような気がした。
彼女は妻となり僕を今でも支えてくれる。彼女のお陰で僕は変わることができた。
私は小さい頃、よく近所の公園に行って一人おままごとをしていた。転勤家族ということもあり、友達がなかなか出来なかった私は一人で遊ぶのに慣れていた。
「おい、あいつずっと一人でぶつぶつ言いながら遊んでやがるぞ」
と周りによく言われていた。
そんなある時、よく行く公園に元気で無邪気に遊ぶ少年がいた。彼はいつも一人で遊ぶ私を誘ってくれた。
「おーい君、僕たちと一緒に遊ばないかい。きっとみんなで遊ぶ方が楽しいよ」
「でも……」
私が言いかけた言葉を無視して私の手を引き、彼は自分の友達の輪に入れてくれた。それからというもの、私はみんなと鬼ごっこや缶蹴りで遊ぶようになった。彼は私に友達の大切さを教えてくれたような気がした。そして、彼の無意識的な優しさが嬉しかった。
私は彼の名前すら分からなかったが、いつしか彼のことが好きになっていた。だが、その気持ちに気づいた私は何もできなかった。私は若すぎたのだ。そして気づけば、私は遠い街に引っ越しをすることになった。
私が高校の時だった。私の初恋の少年と出会った街に訪れる機会があったのだ。彼のことはほぼ思い出の中の存在になっていたこともあり、それほど未練はなかった。だから、会えるかなんて考えてもいなかった。
私が用事を済ませ帰っている途中、見覚えのある市民ホールで誰かの葬儀が行われていた。故人の名前を確認すると同じ苗字の男女がお亡くなりになられたようだった。私が立ち去ろうとすると、制服姿の男の子が会場から走って出てきた。
「くそっ」
彼の顔をはっきりと確認できなかったが、彼があの少年である気がして私は彼を追いかけた。彼は私の知っている思い出の公園のベンチに腰を下ろしていた。私はこの時、運命は存在すると確信した。彼は私の知っているあの少年だった。しかし、私は声がかけられなかった。彼は絶望した顔で泣いていたのだ。
「くそ……くそ、くそ……」
きっと彼の両親の葬儀だったのだろう。私は運命を感じながらも、何も力になれず、悔しくて泣いた。
それから約十年後、最初に就職した会社を辞めた私が転職した先で彼をまた見かけたのだ。部署は違っても同じ会社にいたことに再び運命を感じた。しかし、彼はもう私の知っている彼とは違っていた。どこか表情が暗く、今にも死にそうな雰囲気が漂っていた。私はそんな彼を見ようにも見られなかった。
しかし、私は決めた。私が一人のときに彼が手を差し伸べてくれたように、私も彼に寄り添い助けると。
「ここは禁煙地ですよ。禁煙所で吸ってください」
「すみません。人がいるところは苦手なんです」
「じゃあ、一緒にここで吸ってしまいましょ」
「話聞いてましたか。人がいるところは苦手なんですよ。第一、どうして注意した本人がここで吸うのですか。」
(会社の屋上)
「なんでそんなに付いてくるんだ」
「どうせ一人なんだからいいでしょ」
(会社の昼休みで行ったカフェ)
「僕と付き合ってくれませんか」
「もう付き合ってますよ」
(夜街のクリスマスツリーの下)
「ごめんな。いつも何もしてあげられなくて」
「いいのよ。もう十分恩恵は頂いてるんだもの」
(ランダム・デート)
「なあ、僕と結婚しないか」
「よろこんで」
(思い出の公園でベンチに座りながら・桜の花見)
彼は初め本当に無愛想だったけど、どんどん昔のように輝きを取り戻してくれて私は嬉しかった。
そして、この事実は彼が思い出すまで言わないことにする。それは、昔に囚われているのではなく、今の彼との暮らしが何よりも幸せだからだ。
運命の巡り合わせ 秦野 蓮 @Ren_Hatano
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