第4話 太陽に愛された月
美月の大学生活は、古典文学に触れるにつれ、バイトを除くと古本屋のカフェで古書を読むことが日課となった。しかし、いくら古書を読み耽っても、以前に経験したような夢の世界に紛れ込むことはなかった。
ある時、ふと竹取の翁が言った言葉が思い出された。
『太陽と月はいつまで経っても出会うことができない。 月は夜でないと輝けない。』
しかし、美月はがよく考えてみると翁の言ったことには誤りがあると思われた。
「月は地球の周りを回っているけど、地球と同様に常に太陽の光を浴びているじゃない。私たちの目には夜にしか月が輝いて見えないけれど、それは地球上に居る私たちを中心に考えるからではないか。翁は宇宙のことを知らない昔の人だからじゃない?」
美月は、自分の主観で物を見てはいけないのだと改めて思った。そして、高校時代のラグビー部の月組のことが思い出された。
「戸根宮黄月も菊名暁月も日の当たるラグビーの舞台で大いに活躍して幸せな日々を送っていたではないか。私だって、日の当たる表舞台で幸せを掴むことができるに違いない。」
美月は、古典文学を極めながら著名な作家人生を歩むという自分の大きな夢を追い求めて、邁進する日々が続いた。
ところが、そんなある日、母から連絡があり、父親が危篤との知らせを受ける。驚いて病院に駆けつけると、すでに父は他界していた。傍らには、母親の洋子と、弟の光星が茫然と佇んでいる。洋子の話では、父親の友作は、昨夜急に倒れて、救急車を呼んだが、脳梗塞で処置が間に合わず帰らぬ人となったようだ。泣き崩れる母・・・。美月は、父親の優しい笑顔が浮かんで、悲しくなり、親孝行できていなかったことを悔いた。そして、今更ながら家族の大切さを身に染みて感じていた。光星はまだ、高校2年生だったが、気丈に振る舞い、二人を勇気づけた。
それから数日後、家族と数人の知人に見守られながら、父の遺体は荼毘に付された。父が亡くなると、多少の保険は降りたものの、家計は徐々に苦しくなって行った。光星は、大学進学を諦めて、高校を卒業すると、警察官の採用試験を受験した。美月も大学を中途退学すると、家の近くのレストランで働くようになった。
そんなある日、美月は夢を見た。美月はまた、あの竹林の小径を彷徨っていた。すると、向こうから太陽のように眩く煌びやかな若者がお供を連れて近づいてきた。
「そなたは、何者だ?」
「私は、怪しい者ではございません。連れを見失ったので探しているところでございます。」
「そなたの名は何という?」
「美月、いいえ、かぐや姫と申します。」
「あなた様は?」
お供の者が言った。
「このお方は、帝(みかど)であらせられるぞ。」
「・・・」どことなく、弟の光星に似ている。
「連れはそなたの夫か?」
「いいえ、弟でございます。」
「いいや、夫に違いない。この私をよーく見よ。この私こそが、そなたを真に愛する夫だ、そして、そなたを照らす太陽だ。さあ、いっしょに御殿に帰ろう。」
美月は、自然と涙が溢れてきた。
帝の胸元には、エメラルドグリーンの勾玉が・・・。
「私は、ずっと、この方を探し求めていたのかも知れない。これこそが私の幸せの表舞台ではないだろうか。」
帝は美月を抱きしめて、頬に伝う涙をそっと拭った。
幸せの月 育岳 未知人 @yamataimichi
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