伊奈 自薦短歌集

伊奈

伊奈 自薦短歌集

注:【】は詞書




もう平気、気遣わないで。この涙、速乾仕様になったんだから



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【台風 二首 二〇一九年九月九日】


今日みんな、いっせーのせで休まない?

台風にさらわれたってことで


今日だけは学校嫌いのあの子でも、普通の休んだ子どもになれる



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朝食のグレープフルーツ 苦手だよ

春の遠さが歯にしみるでしょ?



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【香り 二首】


最後まで苦手だったよ

冷めた目と君の好きな煙草の香りも


最初から装ってたね

君の髪は偽物ストロベリーの香り



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いつまでも残るささくれ引き剥がす潔さだけほしい冬の夜



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【#あざとい女になるのはやめよ】


積分も恋も知らないと笑う あざとい女になるのはやめよ



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指先をぶつけて欠けた爪の分、弱くて不完全な存在



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真夜中を駆ける暴走族達も、昼間は赤児のように眠る



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【短歌ヤンキー 二首】


この街で眠らぬ俺を抱くのは 壁に残った詠み人知らず


スプレー缶携え、目線より高く 歌書き殴る短歌ヤンキー



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【二〇一九年 正月】


お正月料理の残る冷蔵庫の中で眠る疲れた私



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平成の端へと向かう人波に逆らう

くわえた煙草はHOPE



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【雨 二首】


横浜は雨、横浜の端っこも雨降る

世界を雨粒越しに


傘がない 迎えに来てと言われても

広い世界で探し出せるか?



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美しく若かったのに

美しく若い故、無駄遣いしたいの



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充電が終わらぬままで夜へ出る

3%の不安抱えて



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独り身はラーメンの具さえ億劫で

キャベツの外葉だけ千切り入れ



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日焼けして駆ける私とすれ違う

幻さ、それも夏だけに見る!



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日なたくさい布団が嫌い

眠る時ぐらい静かにしてよ、追想



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【#イヤな短歌】


雨烟る中、赤い傘骨折れて

通りの隅でくたばっている



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【NUMBER GIRL再結成】


再結成 祝う街角 嘘っぽく笑うあの娘は透明少女



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薄皮を一枚一枚剥ぐように、世界の理 読み解くあなた



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過ぎてから見つけてしまったシャツの染み

命まるごと漂白できたら



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【#平成最後の夏が終わる前に】


誰もいない部屋で首振る扇風機 いつしか夏は忘れられてる



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誰もいない国に行きたい君のため “わ”のナンバーの車を借りる



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おにぎりを必ず角から三口で 作法のように食べ切るあなた


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退屈な映画を借りて二人とも終わりも見ずに眠りこけたい


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