9
眩しい。
そうか、朝になったのか。
どうやら、倒れたまま眠っていたらしい。
私は今、何処にいるのだろうか。
「……お〜い、ツバサ〜」
いつもと少しも変わらない、調子のいい声が遠くから響く。
「こんなところにいた。もう、探したんだからね」
私は、何も言えなかった。
戸惑っていた。
昨日はあれだけ怯えていたのに、目の前には彼女がいる、その事実が私に安堵をもたらす。
「ほら、帰ろう。あ、待って、そこの野菜を回収してくる」
ここは、菜園の近く?
気づかなかった。あんなに離れたと思っていたのに、実際はこんなに近くを彷徨っていただけなんて。
ああ、そっか。ここにあるんだ。
変わってなんかない、変わることのないそらが。
そういえば、彼女はいつも私をバカだって言ってたなぁ。
本当にその通りだったなんて。
なんだか、笑えてきた。
自分が情けなくて、馬鹿みたいな話で、全てを透かし突き抜ける青空に包まれたこの場所で、こんな感情は久しぶりだ。
もういいや、笑ってしまおう。
自分の馬鹿さ加減も、彼女の生き様も、この景色の全ても、私の今までも。
おもいっきり。
「くくっ、あははははははははは!」
「えっ、なにっ!?」
「はは、ははははははははは!」
ああ、気持ちがいい。たった、これだけだったんだ。
朝焼けで輝く黄金色の草原がこんなにも眩しい。
「うへぇ、ちょっと、どうしたのさ。とうとうおかしくなっちゃった?」
「くくっ、失礼ね、あなたに比べたらまだまだまともでしょ」
「歩く品行方正と呼ばれた私に何をいっているのかね、ツバサくん!」
「ふふっ。ええ、そうね。それよりも、お腹がすいたわ」
「なんだよ〜、今までと全然違うじゃん。急に変わりすぎで戸惑うんだけど!」
彼女との時間もここにあって、あの時間だってここにある。
最初から、悩む必要なんてなかったんだ。
無くしたのなら、また生み出せばいい。
あの思い出と共に。
「はぁ、そうね。自分でもびっくりしてる」
「まったく、ちょっとでも悩んだ私がバカみたいじゃん!」
彼女も、悩むことがあったのか。
余計な心配をかけてしまった。
「そう。それよりも、朝食を作るんでしょ」
「ああ、そうだった。あ、さては私の料理の虜になったな?だからこんなところに留まってたんでしょ!」
「…ええ、そうかもね」
彼女の冗談に、私も冗談半分で返答する。
「ほら、ささっと行きましょ……。そういえば。ねぇ、あなたの名前はなんていうの?」
「あ、え、私?名前なんてないけど」
なんと。まぁ、非常識な彼女の前ではどんなことも大した驚きにはならないのだが。
「でも、それじゃあこれからが不便ね。……私が考えてもいい?」
「ええぇ。いや、いいけどここだけの名前だからね」
名前は、そうだな、うん、これしかないだろう。
「じゃあ、あなたの名前は"ソラ"で」
「むむぅ、あんまり空は好きじゃないんだけどなぁ」
「そう?私は好きよ」
「あ、じゃあ決定で」
あと少しだけなのか、それともずっと続いていくのかはわからないけれど、踏み出したんだ。
最初からそこにあった道でもなく、過去に囚われた道でもない。
この広い、ただ広いだけの世界に。
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