プロローグ(化け物視点)

第一話 はじまり

「ふわぁ〜あ」


朝。今日も相変わらずの一日が始まる。

そこまで柔らかくなく、それ故、名残が惜しくないベッドから身を起こす。

殺風景な木造の寝室に差し込む日の光を後に、洗面所へ向かう。

そして、鏡に現れた無愛想な顔を洗い流すため、冷たい水をなるべく大量に掬い、割と強めに洗顔する。

まぁ、こんなことで柔らかくなるくらいなら、苦労はしないんだけど。

その後、リビングで一杯の水を飲み干せば準備は完了。


食料の家畜と植物の世話のため、外へ向かう。

扉を開ける時の軋みさえも、いつもと変わらない。


「はぁ」


こんなんじゃ、表情も心も凝り固まるに決まっている。

そして、極め付けは。


この、永遠に顔色を変えない蒼大な空である。


空を遮るものは何一つなく地平の果てしない草原の上では、あの青に落ちてしまう錯覚すら覚えてしまう。

その中に佇むこの小屋、私の住処が、なんと寂しいことか。


さぁ、気持ちを切り替えないと。

ただ立ち竦んでいたら、鬱になっちゃいそう。


「ん、なんじゃ、あれ?」


目を凝らすと、遥か先に黒い塊がある。

見飽きた景色にいつもと違う一つの点がある。それだけで心が躍る。

そして何より、その物体から後方に走る草を踏みしめた筋が、あれを生き物だと認識させる。


……会いに行ってみるか。

っと、その前に準備をしなくては。

流石に、この独特な姿のままで誰かに会うわけにはいかないだろう。相手が生きているかはわからないが、念のため。


「え〜っと、何処だったかな」


家に一直線で戻り、いつぶりかに開けたクローゼットの中から適当な服を探し出す。

ああ、あった。

やっぱり、身を隠すにはこれだよね。

そうして取り出したのは、灰色のローブである。

裾に燻んだカナリア色の刺繡が施されているが、問題はないだろう。

これなら、左右非対称の小さな翼も、未成熟な尻尾も、歪んだ角も隠せるだろう。

あとは、手袋か。

手首から指先にかかった鱗を隠す為、厚手の革手袋を着用する。


「よっし、こんなもんか」


今にも飛び出しそうになる気持ちに唆されながら、足をねじ込むように窮屈なブーツを乱雑に履く。

さぁ、数百年ぶりの散歩に、出かけよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る