目が覚めたのは、何か柔らかいものの上。

死んだはずの私が、生きている?

悪い冗談のようだ。

まだ、許してはくれないのだろうか。


「聞こえる?というか、生きてる?」


また、声が聞こえる。

状況は掴めないが、この人が余計なお節介を焼いたのだろうか。

生きているって事は、少なくとも助けるつもりで連れてこられたのだろう。

ああ、なに。

バタバタと慌ただしい音が聞こえる。

その音が近づいたと思いきや、自分の意思とは関係なく上体が起きる。

そして、口元に冷たいものをあてがわれる。


「ほれほれ、お水様じゃ。毒なんて入ってないから安心して飲みたまへ」


何か飲ませようとしているのか知らないが、私は精一杯の抵抗を示す。

それでも止まらない強引さに対して、絞り出した声で呟く。


「……」


ああ、駄目だ。もう一度、より強く。


「……構わないで」


すると両頬を圧迫され、無理矢理に口が開かれ水を注ぎ込まれる。


「うん、構わない」


全身を生気が駆け巡ったような錯覚を覚えた。

私の意思とは関係なく、この身体は生きることを歓んでいるらしい。


「これも食らうがいい」


もう、どうでもいいか。抵抗しても意味がないのだから、ここは素直に従おう。

そうすると、次々に口の中に柔らかく液状のものが流し込まれる。


「はやく元気になるといい」


その声を最後に足音と扉を閉める音が響き、静寂が訪れる。

そして、私の意識は再び闇に落ちた。


―――気づけば、そこには夜があった。

少しだけ、少しだけの気力が湧き、目を薄く開くと私が眠るベッドの右手の窓には星が散りばめられている。

夜は嫌いだ。黒の中で、あの記憶がより鮮明になる。

さっきの人は、まだ起きているのだろうか。

せめて、こういう時に騒いでくれるのなら気も紛れるのに。

…何を期待しているんだろう。

この身体に刻まれた傷の代償に、学んできたじゃないか。

期待や希望は、私には不釣り合いだと。

ほら、嫌なものが襲ってきた。

また、朝まで逃げ続けることになるのだろう。

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