「お〜い、生きてる?」


暗闇の中、声が聞こえる。

私に、話しかけているのだろうか。

ならば、沈黙が答えだ。

私はもう、死んでいるのだから。


「よいしょっと」


すると、急に身体が宙に浮く。

いや、抱えられたのか。

もしかして、喰われるのだろうか。

それとも、親切な人が弔ってくれるのだろうか。

どちらにしろ、どうでもいいけどね。

もうこのまま、眠ってしまおう。

ああ、意識が遠のいていく。


―――ギチギチ、ギチギチ。

夢を見ている。

忌々しい記憶の一部を除いている。

あれは、雨が降っていた日。

行く当てもなく彷徨い続け、緑が深い場所に迷い込んだ時。

狼のような化け物に出会い、剣を振るうことを余儀なくされた。

やがて、飢えと寒さで身体の動きは鈍くなり、まともに身体すら動かせなくなった頃。

左足に、激痛が走った。

その刹那の後、細い足に牙が食い込んでいることに気付いた。

これを好機と、渾身の力を込めて化け物の首辺りを何度も刺す。

そして、どのくらいの時間がたったのだろうか。

化け物の頭と胴体が離れ、それでもなお外れない牙を眺め、私は身動きすることができなくなった。

こいつも、飢えていたんだ。

こいつも、私と同じだったんだ。

そのまま血溜まりに倒れ、目を閉じる。

血と、化け物の孤独が、私を暖めてくれた。

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