第九話 笑顔

う〜む、こんなもんか。

杖づくりに妙に拘っていたら、いつの間にか日が昇る時間になっていた。

もう遠く離れてしまったとは考えにくいが、若干不安になってきた。

とりあえず、外に出るか。


「うわ、眩し」


扉を開けると、私の目を突き刺す明かりが溢れてくる。

薄目から、少しずつ光を取り入れる量を増やしていく。


———ああ、いた。


やっぱり、そう遠くへは行けなかったようだ。

とりあえず、この杖を渡しに行こう。それで、ツバサがどう選択するか。

いや、朝飯を食ってからでいいか。

よし、そうと決まれば迎えに行こう。


「お〜い、ツバサ〜」


すぐ近くで草原に横になっている彼女に呼びかける。


「こんなところにいた。もう、探したんだからね」


たいして探してもいないのだが、私の苦労をちょっとだけわかってもらおう。

が、特に返事はなし。しょうがないな〜。


「ほら、帰ろう。あ、待って、そこの野菜を回収してくる」


……聞こえてる?


「くくっ、あははははははははは!」


「えっ、なにっ!?」


「はは、ははははははははは!」


なんじゃこりゃ。すごく怖いんだけど。


「うへぇ、ちょっと、どうしたのさ。とうとうおかしくなっちゃった?」


「くくっ、失礼ね、あなたに比べたらまだまだまともでしょ」


「歩く品行方正と呼ばれた私に何をいっているのかね、ツバサくん!」


「ふふっ。ええ、そうね。それよりも、お腹がすいたわ」


って、あれ。


「なんだよ〜、今までと全然違うじゃん。急に変わりすぎで戸惑うんだけど!」


「はぁ、そうね。自分でもびっくりしてる」


本当に、何があったらここまで変貌を遂げるのだろうか。

人格が入れ替わったと言われても、正直驚かないくらいだ。


「まったく、ちょっとでも悩んだ私がバカみたいじゃん!」


「そう。それよりも、朝食を作るんでしょ」


え?ああ。


「ああ、そうだった。あ、さては私の料理の虜になったな?だからこんなところに留まってたんでしょ!」


「…ええ、そうかもね」


おかしい。調子が狂う。なんだこれ、頬が熱い。


「ほら、さっさと行きましょ……。そういえば。ねぇ、あなたの名前はなんていうの?」


上半身を起こした彼女が唐突に質問を投げかけてくる。

ええ……。いきなりすぎて頭が追いついていないんだが。


「あ、え、私?名前なんてないけど」


「でも、それじゃあこれからが不便ね。……私が考えてもいい?」


「ええぇ。いや、いいけどここだけの名前だからね」


なんだろう、立場が逆転したみたいだ。


「じゃあ、あなたの名前は"ソラ"で」


空?名前なんていらない上にあまり好きでもないものと同じ名を与えられるとは。


「むむぅ、あんまり空は好きじゃないんだけどなぁ」


「そう?私は好きよ」


「あ、じゃあ決定で」


前言撤回。

しかし、これが素のツバサなのかな。

それはそれで嬉しいのだが、急すぎて不気味に感じている部分もある。

だけど、私はその程度で怯まないのでした。まる。

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