第三話 目覚め

「おっ、動いた?」


数日経った頃、暇潰しに見ていた人間の体が、微かに動いた。

長らく寝室を独占された状況にうんざりしかけたが、生きているなら重畳だ。

しかし、ここ状態で息を吹き返すなんて、奇跡としか言いようがない。


「聞こえる?というか、生きてる?」


口元に耳を寄せ、反応を待ってみる。

おお、本当に微かだが、連れてきた時よりもほんの少しだけ力強い呼吸の音が聞こえる。

ちょっと感動だが、おそらくはまだ話せるような段階じゃないだろう。

……水でも飲ませるか。

そう思い立ち、急ぎリビングでコップに水を注ぎ彼女のもとへと持ってくる。

そして、彼女の上体をゆっくりと抱き起こし、口元にコップを付け傾けた。


「ほれほれ、お水様じゃ。毒なんて入ってないから安心して飲みたまへ」


警戒心を抱かせないためのナイスジョーク。

あれ、口を開けないな。

ぐいぐい。ぐいぐい。

あ、これ、拒んでるわ。

彼女の意思だわ。

こと切れた人形でなく、彼女を生き物だと知らしめる仕草。

これで、彼女を救った甲斐があったとまたまた感動。

でも、なんで飲んでくれないんだろう。

ジョークか、ジョークが悪かったのか。


「……」


お、なんか話そうとしている?

またまた口元に耳を寄せてみる。


「……構わないで」


蚊の鳴くような声で、そう呟く彼女。

構わないで。

ほほ〜ん。

そう聞くや否や、強引に彼女の口を開けて、それでも水はゆっくりと流し込む。


「うん、構わない」


そんな衰弱した身体で抵抗しようとしても無駄なのだよ。フハハハ。

調子に乗った私は念のため皿に入れ用意した果物をすりおろしたものも食べさせる。


「これも食らうがいい」


スプーンですくい口元に持っていくと、意外にも素直に開かれた彼女の口。

なんだか餌付けしてる気分。


「ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨリンチョ」


ああ、閉じちゃった。


「ごめんなさい、調子に乗りました。お願いですから、食べてください」


元気になるまで茶化すのはやめておこうと思ったのであった、まる。

さて、意識も徐々に回復して食事もできるのなら、快復していると見ていいだろう。まだまだ予断は許されない状況だが、少しだけ安心だ。

世話する間に愛着も湧いてきたので、最後まで面倒を見てやろうではないか。

うへへ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る