2.護美箱
「
文字通り右も左も分からない、前後不覚の白色。そんな中でどこからともなく声がする。
だれ。アナタはだれ。ここは。
「私は女神さま。ここがどこかを
めがみ。そんなこと。
「あら、疑っているのですね。突然のことで驚いているのでしょうけど、まぁ、
「ここは死後の世界に一番近い場所、ようこそ『
正面の法壇に人影がある。人形のように小さくて、衣服をなにも着ていない。産まれたての赤子という表現がこれほど似合うものも他にないだろう。
あか、ちゃん?
「これは仮の
データベース?
「データベースはデータベースです。あると非常に便利……例えば、こんなモノとか」
小指程度の大きさの白と黄色に別れた円筒状のモノが出現する。久しく見てなかったが、それが
なに。吸って。や。やめ。
「大丈夫ですよ。煙草なんて
そう言って、今度はころりころりっ、と、
頭を抱えたい気持ちを必死に抑えて質問する。
ゴミ、バコ? セカイ?
「ええ。存在の死、
なにもかも突然で、なにがなんだか分からない。けど、ひとつだけ聴きなれた
サイ、レント?
ありえない。だって
堪えるような
「ごめんなさいね、おかしくて、つい。だって、クリニストはすでに“
あ。え?
「エリートフォンの誕生から程なく、民衆を煽動して不当に
「そこは今から説明しましょう。最初は……エリートフォンには
また
「まずは、制限のない健全なコンテンツを指す【
政府管轄の年齢認証が必要となるコンテンツは【
視覚なら
そして【
それは今更説明されるまでもなく知っていた。
「なら、知っていますか? 【
一覧の一番下に新しい
「そうでしょうね。世間には
異世界なんて
「大勢にとって
「そこは光に追放された影たちの
分からないことだらけだけど、それは心当たりがある。
もしかして。それが。いまの
「ええ、正解です。
光にも影にも不適切であると追放されてしまう。
もしここに
きえる。そんざい。しなくなる。そんな。そんな。
泣きだしそうな剥き出しの感情を抱きしめることもできない。
「安心してください……とは言えませんけど、そんな
もどれる。
「ええ。ですから、聴かせてください。
すべて話し終えたとき、「大変努力なさってきたのですね」と
「それで、だれを救ったんですか?」
……。え。
「
「
ち。ちがう。
「……このまま話し合っても埒があきませんね。主張は平行線を辿るでしょう。なので、その言葉が
みんな。
だれか。いる?
一人じゃない。
もしかして。いままでに。
その
ちがう。
それに気が付いたとき。
けど、すでに遅すぎた。
いくつもの見えない
イヤ! イヤ! さわらないで!
容赦なく
たすけて。ちぎらな
キモチワルイ
ヤダ。ヤ ゙。
うば
ゆるし 。
ゅ 。
て
ぁ
すべてをあきらめる。
その時だった。
いきなりのことで反応できなかった。ただ護られるように、その
「……審判の結果が出たようですね」
「静粛に! 判決を言い渡します!
もど。れる?
恐怖で疲弊しきった思考でも反芻するだけの能力は残っていた。
「運が良かったですね。けれど、もう一度
ま。まって!
「
まってよ。ダレ? ダレなの?
アナタは。
「さようなら、
そう言って、
「いてっ」
額になにかが当たって、目が覚める。頭を撫でながら周りを見回すと、
「あれ?」
床になにか落ちている。拾いあげてみると、アイスの棒だった。これが満杯だった
そのアイスの棒と
「…………のど、からから」
妙に渇いた喉を抑える。冷凍庫にまだアイスキャンディがあったはずだ。一階に降りると、キッチンに母がいた。
「あら? どうしたの?」
「ちょっと喉を養いたくてね」
冷凍庫には予想通り、アイスキャンディが入っていた。もうすこし入っていた気がするが、最後の一本だけだった。
「……ねぇ、お母さん」
「ん、なーに?」
「お母さんは、小学校の頃の私と仲良かった子を覚えてる?」
「えー、だれのこと?」
「ほら、仲良かった子いたじゃん。一緒に登下校したり、お泊まりとかもしてた子、覚えてない?」
「それだけじゃ分からないわよ」
「ほら、ずっと傍にいて……気弱で心配性で鈍臭くて、そのくせ人一倍優しくて、人の嫌がることは絶対にしなかった……そう、絶対しなかった」
「そんなこと言われても…………あ、もしかして、チサちゃんのこと言ってる?」
――。ああ。ああ。
そうだ。
チサ。チサ。千紗ちゃん。
何年も失くしていたパズルのピースがようやく完成できたような、そんな気分だった。
あれ。なんでだろう?
唐突に目の奥が熱くなって、なにかが込みあげてくる。
心配した母が近寄ってきた。
「ど、どうしたの? なにか変なことあった?」
「本当に、どうしちゃったんだろう。あはは」
「なに、チサちゃんとケンカでもしたの?」
「ううん。ケンカなんてしないよ。友達だもん」
「そう、よね。……だって、今日も遊びに来てたものね」
「………………………………え?」
一瞬、思考が止まった。
「今、なんて言ったの、お母さん……?」
「チサちゃん、遊びに来てたでしょ? さっきも一緒に食事したじゃない。マナカ、やっぱり調子悪いじゃ……」
心配する母の声はもう聞こえなかった。すべての
その中でひとつだけうるさく響く。寝る前に閉じ忘れていたエリートフォンのウィンドウ――そこから流れだす無機質な
『ただいま入ったニュースです。夫妻宅で身元不明の死体が発見されました。夫妻は「身に覚えがない。知らない人物」と供述しており、警察は連日発生している同様の事件と関連性があるか……』
「
私の問いに、
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