問2 無知の教育

 At night

 At the restaurant

 さっきの「凍結男」がコーヒーを出してくれた。彼はメガネをかけて、昼間の黒ずくめと違ってエプロンをつけていた。髪は銀に近い金髪。結構身長が高い。四人がけのテーブルに向かい合って腰掛ける。昼間に悪いやつら・・・と「お化け」に襲われたときにいた仲間二人はいないみたいだ。

「・・・まずは、俺たちを助けてくれてありがとう。もう少しでソラが連れて行かれることだった。俺は能力の都合上、攻撃は無理なんでね・・・ああ、紹介が遅れた」

 凍結男は手を差し出した。

「俺は 朱雀 亮助。警察直々の仕事でああいう賊の取り締まり及び駆逐をやっている。まあ、呼ぶときはスザクでいいぜ。これからお前とは長い付き合いになると思うからね」

 スザクさんね。

 すごく名前カッコイイじゃないですかw。

 そう言いたい自分がいたが、その台詞は後回し。先にいうべきことがある。

「えーと・・・志摩 暁といいます。助けていただきありがとうございました」

 お礼はきちんとね。

「あ、敬語は反応に困るからやめといてくれ。あと、お前については最低限のことは知っているから、自己紹介はざっとでいい」

 あ、はいはいそういうことね。手間が省けて助かった・・・が、一つ違和感がある。

「あのー・・・」

「ん、どうした?質問は30文字以内でよろしく」

「さっき『長い付き合いになる』って言ったよね。どれくらい?」

「句読点抜きで24字なのでお答えしよう。・・・というか昼間に言ったよな。俺たちはお前を『スカウト』しに来たと」

 そんなこと言ってたような・・・ああ、言ってたな。

「一口にスカウトと言っても、何のスカウトか分からないと思うので・・・いろいろ言うから良く聴いてくれ」

「・・・了解」

凍結男改めスザクさんは、コーヒーを一口飲んで話し始めた。

「まず、君の質問に答えると・・・事件が落ち着く、あるいは高校を卒業するまでだ」

 長い・・・最高三年か。

「前者に関しては説明は後回しだ。後者は・・・都合上、ここは学生しか受け付けていないんだ」

 なるほどね。

「じゃあ、前者の説明を。まずは一つ質問。君はなぜあの老人が操られていると気付いた」

 少し考えた。どうやらこの人は僕の目のことを理解してくれる人みたいだ。正直に話すことにする。

「・・・見えたんだ」

「なにが?」

「なんと説明すればいいか・・・あの老人が黄色い靄を出してるように見えて、最初杖を落としたから拾ってあげたら、無理やり僕の手を握ろうとしてきてね。怪しいと思って逃げて・・・あの裏路地に行ってしまった」

「んー。んんー・・・ん?今何が見えたって言った?」

「『黄色い靄』が見えた」

「おい・・・本気(マジ)か?」

 僕は頷いた。

「・・・まじか。これは大変なことになった。ちょっと待ってて」

 スザクさんは駆け足で店の奥へ向かった。

 その間にコーヒーをいただいた。美味い。いつも自分で飲んでいるコーヒーの倍以上美味い。ブラックなのだろうが、とても苦いわけではなく、でもちゃんと深みのある味だ。全部飲んでしまう。

 二分ほど経っだろうか。スザクさんが出てきた。

「お待たせ。ソラに持たせていたのを忘れててね。いまバックから回収してきた」

 スザクさんが取り出したのは、小さなポーチ。その中には双眼鏡のようなものが入っていた。

「・・・これは?」

「簡単に言えば君の目を『道具』にしたものだ。使ってみろ」

 僕はその道具を通してスザクさんを見てみた。すると、スザクさんが赤く見える。

「これは通称『センサー』と呼ばれる道具だ。こいつは"体外に出た"魂を感知できるハイテクマシン。一台役300万・・・のところを無料でもらってね」

「へー」

「こいつを使えばお前が見たみたいな靄を見ることが可能になる・・・がさっきみたいに戦いながら見るなんて不可能な話。だから君が必要になる」

 あー、なるほど。

「さっき『事件』と言ったな。この町の表は貿易で財を成す都市。裏は・・・こういった『ゴースト』と呼ばれる能力者たちを核としたヤクザの団体様が大量に住まうやばい町だ。だからこんなことはほぼ毎日起きる。そのために俺たちみたいなチームを警察が作って、対抗するんだ。ゴーストは『能力者』と説明したが・・・どうやってその『能力』を使っているか分かるか?」

「いや・・・手品か何かとしか・・・」

「まあ、不正解ではない。簡単にいえば、自分や対象の『魂』をコントロールして使うんだ。たとえば俺の『凍結』の能力・・・喰らってみたほうが早いか」

 すると、スザクさんは僕の手を握った。その次の瞬間

「・・・え?ひんやりしてきた・・・」

 不思議だ。「凍結男」と呼ばれるくらいだから、マジで手を凍らせてくるかと思ったら・・・その類には入らないまた別次元の能力だ。自分の手が見た感じ凍ってるわけではない。でも、内側が冷たい。さらに・・・

「え?動かない?」

 力が入らない。

「まあ、こんな感じ。俺たちゴーストが使う能力は、基本的に『相手の魂がそういう状態になった』と認識させることで初めて発動するんだ。昼間戦ったあいつも、俺たちが『飛ばされた』と認識させたから、体が浮いたんだ。君の目も一緒。『見える』とお前がが認識しているから見える」

「でも、それなら誰でも『見える』と思えば見えるんじゃないか?」

「確かにね。でもそれは非常に難しいこと。よくは分からないんだけど『きっかけ』として、魂が大きく動かないと能力が目覚めない。怒り、悲しみ、憎しみ。そんな誰でもありえる魂の変動のさらに上を行く変動が起きない限り、使えるようにはならないんだ。正直なところ、本当にどのようなきっかけでゴーストになれるかは分からない。科学的根拠がないからこうとしかいえないんだけどね」

「なるほどね」

「ただ・・・不思議なことが一つある。君は能力を二つ同時に使っている。不可能とは言い切れないけど・・・何があった?何があって目覚めたんだ?」

 考えてみる。でも、答えが出てこない。

「・・・わからない。気付いたらもう使えてたんだ」

「そうか・・・不思議なことがあるもんだな」

「うん」

 自分の能力が出たとき、確かにスザクさんたちを巻き込んだ罪悪感は感じていた。でも、能力を始めて使った実感が無かった。なぜか。使い方を知っていたからだ。だから分かる。僕はどこかで目覚めていたんだと。

「・・・一応、俺からの話は以上だ。ゴーストについてと、この町の事情が知れればOKだ」

「うん、じゃあOK」

「それじゃ、帰っていいよ。家まで帰れるか?」

「スマホあるから大丈夫。今日はありがとう」

「おう」

 僕は出口へ向かった。とりあえずスマホが無事でよかった。地図アプリを操作していると

「ああ、待て。言い忘れたことあった」

 スザクさんが呼び止めた。

「明日は暇か?」

 あしたか。まだ何も分からんが一応。

「うん、暇だよ」

「よし、じゃあ明日の5時にまたここに来てくれ。また話がある。警察の許可なしには仕事ができないし、給料も入らないのでね」

「了解」

「ああ、あと」


「このチームは黒ずくめ&キャップ必須だからな」


After that

「もしもし、天城さん?」

「ああ、うん」

「うれしいお知らせと悪いお知らせ。どっちから聞きたいですか?」

「・・・悪いほうから」

「シェイカーズに喧嘩を売った」

「馬鹿。まともに接近できない相手になに喧嘩売ってんの?勝ち目無いでしょう?」

「いままではですね。いいお知らせ行きます」

「なんだ?」

「あたらしいゴーストをスカウトしました。しかも浮遊中のものを含むゴースト能力者を可視するうえに、侵食能力持ちです」

「…レアかな?」

「おそらくは。雇いたいので明日4時半にいつもの場所で」

「・・・了解。ああ、注文が一つ」

「なんですか?」

「手数料として、あんたのカレー一杯御馳走しなさい」

「・・・はいはい」


Go home

 スザクさんは言っていた。

 まず、僕はゴーストと呼ばれる能力者になったということ。

 ただ、目覚めたきっかけが分からないということ。

 能力は、相手の魂をコントロールして状態異常を認識させることにより発生するということ。


 以上。


 ということは、僕の能力は相手に「食われた」と認識させて攻撃しているのかな。

 そもそも、なんで「食われた」と認識させているんだ?

 あれ?僕の能力は何だっけ?

 二時間後にはこんな感じだった。

 結論を言おう。


 僕が能力者であることをしっかり「認識」できていない。


At the restaurant

In the room of that

「あ、空が目覚ましたよ!」

「おきたか!大丈夫か?」

「ん…んー」

「あーダメみたい。また寝ちゃう」

「…まだ、命の恩人に会ってないのによ」

「ウチも会ってないけどな」


「…命の…恩人?」


すぴーっ…

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プラカージ! 紫宮 翠 @shiimiyag

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