咲の夜
少し眠ってしまったようだ。
プリンの皿と肩にかけられた毛布
ピンク色のエプロンをつけた誰かが鼻歌を歌いながら洗濯物を畳むのを見る。
これは、夢?
ふっくりと白い手のひら。目尻にちょこんとあるホクロ。
どこかで見たことがある。
……そうだ
あれは桜のはじめての七五三の時
あの時は泣いて泣いて大変だった
泣きぼくろがあるからねえ、元気だねと一族で笑った
学校で嫌なことがあった時
失恋した時
訳を教えてくれない時もあった
いつもわたしのそばで、わたしの胸の中で泣いていた桜。
あれは、私のかわいい桜じゃないか。
「桜」
タオルをたたんでいた彼女の動きが止まった。
今まで微笑んでいた大きな瞳にうりゅうりゅと涙がたまる。
「ありゃ、泣き虫桜になった。また何かあったのかい?ばあちゃんに聞かせてみな。」
「違うの、違うの。ばあちゃん……あのねうまく言えないんだけどね。わたしあなたの孫で良かった、ばあちゃんの言葉は私の生きる糧となってずっと残っているよ。ありがとう。ありがとうって言いたかったのずっと」
「そうかい。ありがたいねえ。わたしも桜がわたしの孫で本当に良かったと思うよ。桜は私の自慢の宝だからねえ」
しばらく嗚咽が続く
時計の秒針が一回りした。6時半。今晩のおかずは何にしようか
孫……孫?そう、孫。今は初孫のためにおくるみを作っている。それにかわいいよだれ掛けも。夕食を食べる前に少し進めようか。
立ち上がりかけたその時に気がつく。
女の子が泣いている
しかもわたしの胸の中で。
どうして?と思う気持ちと何故か懐かしい気持ち
どうしてこんなに優しい気持ちになるのだろう
「あらあらあなたはどうして泣いてるの?親御さんはどちら?あなた、お名前は?」
ぶーっと威勢よく鼻をかんだあと
あは、と笑って彼女は答えた
「……桜です、咲さんに以前大変お世話になった者なんです。いつもありがとう。」
桜の、咲の 知世 @nanako1123
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