咲の朝
ダダダダダ!と超特急で階段を下りかけて、うるさくすると父に怒られる!とそっと速度を落とす
でも今日はそんなこと言ってられない。本当に遅刻だ。
ああお腹もすいたのに
遅刻遅刻ーとバター付きパンでもくわえたいところだがそんな余裕もない
なんだか歩きづらい階段を降りて、玄関に出るとわたしのローファーがない。
なぜか見たことない靴しか並ばない靴箱を見て焦る気持ちは2倍になる
「お母さーんわたしのローファー知らなーい?」
はーいと答えてパタパタとやってきたのは母とは別の人間だった。
「え?」
ピンク色のエプロンのその子はわたしと同年代に見える
戸惑いを隠しきれないわたしに向かって彼女はニコッと笑いかける
「咲さん今何歳?」
「えっと18だけどローファーがないんだけどどうしよう?」
混乱をそのまま固めたような返答。
「それじゃ、1時間目はエスケープしてプリンでも食べましょうか」
「ええ!?」
「おいしいプリンがあるんです。ひとりで食べるにはもったいない。喜びは分かち合うことで2倍になるんですよ」
彼女に連れられて居間に戻る。
今の状況を把握できないことよりも、彼女がこの家に馴染んでいることに驚く
テキパキとぷりんを用意する彼女。
なんの違和感もない、というのが唯一の違和感なのだ。
おいしいですよ、とニコニコ笑う彼女につられて、変わった形のスプーンでぷりんをすくう
「おいしい……」
「でしょう?」
冷たく甘いぷりんを、なぜか安心する彼女と食べていると細かいところなどどうでも良くなってしまう自分がいた。
「学校さぼっちゃおうかな。」
「それがいいですよ今まで真面目に頑張ってきたのだもの。それに私、この家にひとりぼっちなのはさみしいです。」
「それは、さみしいね。」そう呟くと
彼女はどこか痛みをこらえるように微笑んだ
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