勇者の心が折れる音~後編~

「あ”……あ”ぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!」


 まずは賢者から……そう言わんばかりに、賢者がジワジワと、私の前で嬲られていた。



   苦悩の梨による拷問。残虐すぎたのでカット。


                                  』


 その拷問器具の恐ろしさを知っている私は、賢者が痛めつけること以上の目的もなく残虐な拷問にかけられる怒りと、それに対してなにも出来ない悔しさに唇を噛みちぎる勢いで噛みしめようとして顎の力が抜ける。


 ……うっかり舌を噛んで自殺できないくらいの処置。当然してるわよね……。


 悔しさに歯を食いしばることさえも出来ない。その無力感がどこまでも私を絶望に突き落とした。


「あ”! あっっっっっ!!!!」


 賢者が声にならない悲鳴を上げる。


 それでもまだ賢者は死ねず、人としての尊厳も与えられず、ただただ凄惨な拷問によって多大な苦痛と共にゆっくりと死への階段を上らされる。


「ひぎっ! ひっひっひっひっ!!! あ”ァァァアアアアアア!!!!!」


 その苦痛で賢者は失禁し、見ているだけでも辛くなるほどの、この世の終わりのような絶叫を上げた。

 止めたい。助けたい。今すぐ賢女を解放したい。


 やめて、やめなさい。


 その言葉が喉を出かかる。でも、これを言えばあいつらはきっと面白がって更に賢者を苦しめるだろう。

 私は考える。どうしたら助けられるかを。


「い” 痛い” 死んじゃう……ごめんなさい……ごめんなさい……」


 賢者がボロボロに号泣する。


 どこからともなく出てきたゴブリンはそんな賢者に対して容赦なく、両足を引っ張り股を裂き殺そうとしていた。

 普通じゃないゴブリンの怪力なら、レベル1になってしまった――あんな小柄な賢者なんて簡単に裂けてしまうだろう。


「ごめんなさい……助けてください……ゅ、ゅぅιゃさん………」


「やめて! やめなさい!!! もう十分でしょ!?!!!!」


 今までなんとか堪えていた我慢が決壊し、叫んでしまった。


「やめてほしい?」


 あの男がニヤリと、薄気味悪い表情で私に聞く。


「やめて、欲しいです」


 私は懇願するように、そう呟く。


「声が小さくて、よく聞こえなかったなぁ」


「……やめて、ください! ……お願いします……」


「ダメでーす! どうぞ、やっちゃって」


 ブチリ。


「あ”あぁぁああああああああ!!!!!!!」


 股から真っ二つに、賢者が裂かれる。

 骨盤低筋群が裂け、抑えていた内臓が飛び出し地面に落ちる。足がもげてもゴブリンたちは賢者を裂き、やがて首まで半分に裂いたところで薄い皮を剥ぎ取って頭をとった。


「勇者さん……ごめんなさい……」


 そしてその頭は、胴体から外れてもなおその一言を言い残して……賢者は死んだ。



                  ◇



「んっ、あ”ぁ! あぁんっ、ひぎぃっ!」


 喘ぎ声と苦悶の悲鳴が交互に聞こえる。

 賢者が死んで間もなく、今度は聖女が酷い目に遭っている。


 聖女は今、ゴブリンに身体中を舐められ時に身体中を貪るように食べられていた。……メイガスゴブリン・闇に『催淫』の呪いや『敏感』になる魔法をかけられた上で。


 聖女はゴブリンに食べられている。


 勿論性的な意味じゃなく……いや性的な意味でも食われているし、その上で食料的な意味でも食べられていた。

 ゴブリンが、聖女の柔らかそうな太ももの付け根をペロリとなめて、そこに牙と突き付けガブリと囓る。



『聖女が食べられている描写。警告を受けたので自主規制』



 聖女は生きたまま食べられる痛みと恐怖を感じながら、魔法によって無理矢理快感を感じさせられていた。


 太ももの抉れた箇所からは血が噴き出し、それをゴブリンが下品に啜る。



『聖女が犯されながら食べられる。これも引っかかったので、規制』



 ある意味想像が付かず、それでいて想像を絶する光景。


 勇者は声にならない悲鳴と絶叫を上げながら、鼻水を垂らし泣き叫んでいる。


「やめろ。やめて……。やめてください」


 首だけになり、その首すらこれまた他のゴブリンにサッカーボールのように扱われ蹴られて死体を辱められる賢者。

 喘ぎ声と叫び声の混じったような表情で食われる聖女。


 泣き叫び、殺せ殺してくださいと喚く勇者。


 これが元仲間のなれの果て。


 そして、目の前に移る凄惨な状態に俺の精神も相当すり減っていくのを感じる。


 しかしだからこそ意味がある。

 聖女も賢者も、俺にとっては元々仲間だがそんなに仲が良かったわけではないパーティメンバーだ。


 しかし勇者にとって、彼女たちは愛する恋人でありかけがえのない仲間なのだ。


 関係がそこまで濃かったわけじゃない俺でも、気を失いそうにショッキングな光景。


 勇者はきっと、俺以上にこの光景が精神に来ていることだろう。

 だからこそ意味がある。

 勇者が大魔王が死ぬまで生き返り続けるというのなら、俺は勇者を殺さず、勇者が二度と俺を殺しに来れないようにトラウマを植え付ける必要がある。


 少なくとも和解を求めても、応じてくれるような相手ではなかったから。


 良心が痛まないと言えば嘘になる。


 勇者は仲間だった時の俺を殺そうとした、そんな人間だから仕方ないと、この現状の責任から未だに逃れようとする自分もいる。


 だけど俺は直視し、徹底的に勇者の心を折りに行かねばならない。


 これから十年、二十年……何十年もかけて拘束し続け、勇者の精神が完全に喪失するまで徹底的に。

 そうでもしなければ、勇者はきっと俺を殺しに来るから。


 俺は死にたくない。


 あの日、奈落の底に落とされて偶然拾えたこの命。


 叶うことなら天命まで全うしたい。勇者の苦しみや、かつての仲間の死を無駄にしないために――俺は改めて決意を固めた。

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