オーガの王
あれからすぐに、ロード・オブ・バフォメットには元々バフォメット・オーガの補佐をしていたはぐれ上位悪魔のマクスウェルと元々高名なアンデッドだったというマーリンを紹介した。
マクスウェルもマーリンも、スゴく優秀な奴らだ。
力と器を兼ね備えているが、統治と統率には少し信用できないロード・オブ・バフォメットをしっかりと補佐してくれるだろう。
後は彼らに任せる。
ヨーロッパは、ロード・オブ・バフォメットの暴走でめちゃめちゃになったけど、まぁヨーロッパに知り合いなんていないし、今回の一件で俺が反省したように、彼らも何かしら学んで今後よりよく統治してくれるだろう。
そう信じて、ぶっちゃけ俺は疲れて帰りたかったので最低限の引き継ぎをして迷宮最深部にある自室に戻った。
◇
「完全に盲点だったなぁ」
この奈落の木阿弥に所属する、王や補佐優秀なモンスターなど完全強化されたやつらの『身代わり』が割れたらこの迷宮のピンチと言うことで警報が鳴るように設定しておいた。
だから、ワイズ・トロールがロード・オブ・バフォメットの攻撃で身代わりが割られた時に警報音が鳴ったんだけど……。
「自殺は、身代わりじゃ防げないんだなぁ」
検証したことないし、そもそも『身代わり』スキルが貴重なのだ。
『身代わり』スキルを持ったやつの自殺なんて史上初だろう。
しかしそもそも、俺はまさか奈落の木阿弥のモンスターが自殺するだなんて思っていなかったのだ。
というか、思わないだろう。
基本的に放置だし。土地もバンバンやってるし、彼らの強化のためならDPだって惜しまないし、大陸制覇を指示しているがノルマがあるわけでもなければタイムリミットを設けているわけでもない。
待遇が良いわけではないが、悪いわけでもない。
いや、そもそもバフォメット・オーガ・赤が自殺した理由は待遇云々じゃなくて、悲願のためだったんだから俺が気付けなかった時点でどうしようもなかったんだが。
でも逆に言えば、俺が気付けてさえいれば……。
この思考の無限ループをどれほど繰り返したかも解らない。
気が付けば俺はまた、いつかのようにベッドに沈み込んでそんな苦い後悔を何度も何度も頭の中で反芻していた。
そう言えば、どうしてロード・オブ・バフォメットは暴走したのだろう。
いや、暴走自体はあり得ない話じゃない。
ロード・オブ・バフォメットの昇華限界はあの鬼人を超えていた。
鬼人ほどに武に精通していて、自らの戦意をコントロールできる達人ですら腕ならしにトレーニング施設で軽く暴れたのだ。
それに三日月と血とオーガたちが生み出した濃厚な魔力にも当てられたのかもしれない。
圧倒的な力を急に手に入れて、精神が昂ぶる状況下にあれば雰囲気で暴れちゃうかもしれない。
ただ、あの暴走状態の時、どうしてこの迷宮の支配下から外れたのか。
それは少し疑問だった。
暴走状態だから支配下から外れたのか、単純に、バフォメット・オーガ・赤の召喚の過程で支配下から外れたのかも、今となっては知るよしもない。
ただ、だからこそロード・オブ・バフォメットを魔王化させたと言っても良い。
魔王化すれば、迷宮主としての支配だけでなく大魔王としての支配も加わってより暴走のリスクが下がるし、それに、あれ程の力を発揮したあいつが魔王の力で更に強化されればそれだけこの迷宮の強化に繋がる。
いや、それでも暴走するリスクがないとは言いきれない。
本当なら、あんな危険因子殺してしまった方が良かったのかもしれない。
それでもあの力は魅力的で、どうせなら仲間にしたいと思った。
何より。ロード・オブ・バフォメットの存在そのものがバフォメット・オーガ・赤の悲願の形であると知ってなおさら仲間になって欲しいと思った。
或いは彼を、バフォメット・オーガ・赤に重ねているのかもしれない。
スゴく甘くて、女々しい選択。
やっぱりどこまでも俺は支配者として不向きで、どこまでも格好悪い。
人間としての自分は捨てたはずなのに、必ず弱った時には人間の顔に戻ってしまう。
俺は一体何なのだろう?
そんな哲学めいた疑問も最早興味が沸かない。
ただ、今日はスゴく疲れたなぁ。
俺は少しふて寝して、そして「いくら考えても、もう過去のこと。故にどうしようもない」という真理にたどり着き、気分を入れ替える事にした。
偶には俺の方からタキエルに甘えに行くことにした。
◇
ラオスの首都ビエンチャンにたどり着いた後、私たちは宿で休む事にした。
「うふっ」
「あははっ」
「いひひっ」
「遂にあいつに一矢報いてやったわ!」
「流石です勇者様!」
「最高に気分が良いから、今日はパーッと宴をしてそれから部屋で大人の二次会をパーッとしましょう!」
「もう、こんな時からいやらしいですね。勇者さんは」
「あら、でしたら賢者さんは二次会は別室で休んだら如何です? 勇者様、今日は私と二人きりで」
「べ、別にそうはいっていないでしょう?」
「え~。賢者さんは今からそんなことを考えてるだなんてやらしーですね」
「なっ!?」
いつもの用に軽くじゃれつく賢者と聖女が微笑ましいを天元突破して尊い。
私は、愛する仲間たちのじゃれあいにうっとりしてから、今日あの男に一矢報いた聖剣『天叢雲剣』を眺めた。
……あれ? なんか、変な紙切れが着いてる?
目障りなのでひっ剥がそうと思って、触れた瞬間、なにか嫌な予感がした。
「え?」
「ゆ、勇者様? ……ど、どうしたんですか? その格好!!」
聖女の声に私は恐る恐る自分の格好を見ると――大事なところに白い紙が貼られているけれど、ほぼ全裸みたいな格好だった。
「な、なにこれ!?」
「と、とりあえずこれを着てください」
賢者が自分のローブを脱いで私に着せようとしてくるけれど、ローブは磁石の同極同士が反発し合うように、私から退いていく。
「こ、これは……」
聖女がこの格好の私をマジマジ観察してから、宣告した。
「呪いですね。それも強烈な。……しかも、どんどん呪いの気配が強くなっていきます!」
「え!? 嘘でしょ?」
「……幸い、命に関わる類いの者ではないのですが、この呪いがある限りこれが『強制装備』され続けて他の装備が着用できなくなるもので……」
聖女は少し悔しそうな声で、残酷な事実を宣告した。
「単純な呪いの上に、術者もかなりの凄腕のようで。今の私では到底解除できません」
マジで!?
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