勇 者 は 呪 わ れ た

 乳首と陰部を隠すように貼られた、三枚の白い御札。


『裸の木阿弥』防御力-5――とっても卑猥な衣装。衣装と言うよりもはや全裸に等しい。これを来ている女は痴女。


 ギリッ。


 鑑定の説明にイラッとして奥歯を強く噛みしめた。今ので絶対奥歯が欠けたと思うほど強く噛みしめた。

 私は再び自らの格好を見た。

 胸を隠す御札の方はぺったりと張り付いているわけではなく、飛んだり跳ねたり風が吹いたりしてしまえばペロリと捲れてしまう程度の雑な張付け方だった。


 陰部を隠す方はぺったりと張り付いているが。


 そんなのなんの慰めにもならない。

 見れば見るほど、考えれば考えるほどに惨めな格好だった。


 身体のラインが出るとかそう言う次元じゃない程に限りなく全裸で、下の方は大事なところが隠れているように見えて、薄い紙切れがぺったりと張り付いているだけなので形は丸わかりだし、面積が小さいのでまだまともに生えそろっていない陰毛も全然隠せていない。


 今はなんとか、賢者がステルスの魔法をかけて街中でも人目に着かないで済んでいる。


 だから、いつか全裸で迷宮を追い出された時のように裸の私と下着姿の聖女たちの写真を撮られてネットで拡散されると言うこともないけど、そもそも見られなければ恥ずかしくないというわけでもないし、それに、この魔法だってずっと使い続けられるわけではない。


 如何に賢者と言えど、魔力は有限だし街によっては魔法の仕様を全面的に禁じている場所もある。

 そうでなくとも、戦闘中はどうしてもこの姿を敵の前に晒さないと行けなくなるだろう。……ステルスは戦闘状態に入ると、使えなくなるから。


 それは余りよろしくない状況だった。


 純粋にこの格好が恥ずかしいというのもある。

 と言うか、それが一番だ。こんな裸同然の格好を――今この世界で最も優秀な神聖魔法の使い手である聖女が解けない呪いが解けるまで強いられる。


 屈辱的で、女としての……いや、人としての尊厳を踏みにじられている。


 ただ、仮に私が狂人だとして。この格好になんとも思わない痴女だとしても、この装備はそもそも無防備だ。

 呪われた瞬間に今まで着ていた鎧も脱げ落ちてしまった以上、装備がこの薄っぺらい紙切れで固定されたことになるのだ。


 魔法への耐性、頑丈な素材、神の加護が掛かった強力な防具を一切着けられなくなるのも、普通に痛手だった。


「……ねえ。この呪いを解くためにはどうすれば良いの?」


 私は聖女に聞いた。


「そうですね。現状だと……術者を殺すか術者に解いて貰うかの二択しかないと思います」


 しかし、その術者は……誰だ?


 少なくともあのトロールはあり得ない。何故なら私の剣のダメージによって、どうにか堪えていたようだけどただでさえ押され気味だったバフォメットに、殺されたはずだから。間違いなく。


 そうなると考えられる可能性は2つ。


「例えば、死の間際に自分の命と引き替えに呪いをかける敵がいたわよね」


 可能性の一つを聖女に確かめる。


「……いいえ、それはないと思います。何故なら勇者様に呪いが掛かった後も段々呪いが強くなっていく気配がありました。――それは恐らく、術者が生きていて魔力のつながりがあるからとして、説明が付きません」


 だとしたらもう一つの可能性は自然と絞られた。


 それは、あのトロールの死を嘆いたあのトロールの親玉が、あの傷から私を特定して遠隔で呪いをかけた可能性。

 少なくとも、私の知らない方法で私に一太刀浴びせられるほどに強くなり、そして今、世界中にその魔の手を広げているあの男なら……出来るかもしれない。


 いや、できるのだろう。


「あの男……やってくれたわね!」


 怒りと怨嗟と悔しさが腹の奥から煮えたぎるようにぽつぽつと沸いて、気化したガソリンに火が付くように燃え上がっていく。

 ぶち殺す。ぶち殺すわ。


「二人とも、日本に帰るわよ。今すぐ」


「……はい!」

「解りました。どこまでもお供します、勇者さん」


 私はこの屈辱をバネに、あの男を殺しに行くことを決意した。



                ◇



 タキエルに存分に甘えたあと、俺は各地にいる王たちのところを回って彼らを魔王認定する事にした。

 既にベリアルと、ワイズ・トロールと……バフォメット・オーガ・赤の代わりの、ロード・オブ・バフォメットは魔王化したから、残るは四人か。


 とりあえず遠いところから回る事にした。


 南アメリカのノーライフ・キング。

 中国にいるロード・オブ・オーク。


 奈落の木阿弥一階層を守るアークゴブリン・闇。

 下層でご隠居している鬼人。


 しかしここで鬼人がまた言い出した。


「魔王には隠居しているあっしじゃなく、国を治めるラプラスさんにしてくれやせんか?」

 と。


 ただ、鬼人は現状ロード・オブ・バフォメットが暴走した時や再び勇者が攻め入ってきた時に備えた、この迷宮の最高戦力だ。

 出来れば魔王化して強くなって貰いたかった。


 なので、ラプラスも魔王認定すると言うことで鬼人にも魔王になって貰った。


 ……特に、魔王の人数上限に規定はなかったしね。


 一応十人ぐらいを目安に、あんまり増やしすぎると魔王の強化幅が下がったりするらしいから、とりあえず奈落のモンスター全員を魔王化して、最強軍団を形成する&俺の無敵結界を破れないようにする。

 みたいな真似は出来ないようだが。


 そこんとこだけはしっかりしている。


 女神が仕組んでいるだけ合って色々ザルなんだから、その辺もザルだったら良かったのに。


 それとふと思い立ったのだけど。旅行をしようと思う。


 今やこの世界は全て奈落の木阿弥の支配下にある。


 つまり瞬間移動で世界中のどこでも行き放題だし、その世界中だって奈落の木阿弥のモンスターが統治しているから、俺たちが危険な目に遭うと言うこともないだろう。

 危険な目に遭ったとしても俺は無敵だし、今の俺ならタキエル一人くらい、例え勇者相手でも守れるだろう。


 そんなこんなで、タキエルと二人で世界旅行を始める事にした。

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