世界の真実

 ここはアメリカのニューヨークの魔王城。


 かつて世界の中心と言われたらしいこの場所は今、この世界を大きく変貌させる瞬間の中心地になっている。

 この暗くどんよりとした魔王城の空気を打ち払うゴージャスなる神聖な気配が、俺に否応なくその事実を直感させた。


「よくぞ大魔王を討ち滅ぼし、世界を救ってくれましたね、勇者」


「ククッ。宿敵のお出ましですか」


 ベリアルは少し恐れを含めた笑い声を上げて、俺の前に出る。

 俺はその後ろで、大女神の言葉の後ろにぼそっと「……の荷物持ち」の言葉を添えていた。


「ふふっ、やはり世界を救ったのは私の見立て通り日本の勇者だったんですね」


「いや、まぁ荷物持ちだったんですけどね?」


 今は超一流の迷宮の支配者だけど、その肩書きは言うて女神陣営の敵だと思うし。いや、マッチポンプ説を信じるのなら、それは敵なのかは謎だけど。


「いいえ。真の勇者は貴方です。でなければ世界の真理に触れることが出来る『鑑定』も冒険に不可欠な『アイテムボックス』も与えたりしません」


 大女神は微笑みながらそう言う。いや、まぶしすぎてその姿が見えないから、本当に微笑んでいるのかは謎だけど。

 そう言えば、謎と言えばどうして俺が会ったことも見たこともない大女神が目の前のこの金ぴかであると断言できるのも謎だった。


 謎だけど、なんとなく解る。


 理屈じゃなくて、本能で「あぁ、こんなに金ぴかに輝いている存在は大女神に違いないだろう」と確信したのだ。


「……そうですか」


 それならこの際、俺が真の勇者でも構わないと思う。勇者になるのは夢だったし。


 しかし俺は、この神聖すぎる存在にお前は勇者だ。真の勇者だと言われているのに勇者と言われて思い浮かぶのは二ヶ月半くらい前に、惨い形で殺されたあの勇者の顔だった。


「それでも俺はやっぱり勇者ではないです」


「そうですか。それでは貴方が真の勇者であると言うことを、私は強要しません。では、私は貴方をなんとお呼びすればよろしいのですか?」


「そうだな。迷宮主、かな。魔王を駆逐して、大魔王を討伐できたのは他でもない迷宮のモンスターがいたからこそだし」


「そうですか。では、大魔王を討ち滅ぼした勇敢なる迷宮主様。貴方には、世界を救った報酬としてなんでも一つだけ願いを言う権利が与えられます」


 ……願いを言う権利、ね。

 流石に、大魔王を倒した報酬と言うから大抵の願いは言えば叶えてくれるのだろうが、例えばフェイトのクライマックスみたいに「この世界から消えてくれ」とでも願おうものなら俺は「言う権利は与えたけど、叶えるとはいってませーん」と言われた挙句に俺が世界から消されること請け合いなのだろう。


 かといってここで変に「言う権利?」と突っかかろうものなら、やはり俺が世界から消されるのだろう。


 願っただけなのに世界から消されるってどんな鬼畜ゲー?


 いやまぁあの仮説を立ててしまった以上、大女神に願う願いは「この世界から消えて、この世界を魔法とかスキルとかモンスターのいないフラットな世界に戻してくれ」とでも言うのが主人公っぽいのだろうけど。


 しかし女神を駆逐して、モンスターを消してしまってなんになる?


 その時は間違いなく、世界を悪夢に陥れた犯人として俺が処刑されるだけだろう。


 仮に、最近一気に進めた世界侵略の首謀者が俺だとバレてないとして、だとしてもモンスターがいなくなると言うことは、俺は奈落の木阿弥の迷宮主じゃなくなるって事だ。

 それだけじゃない。


 意外と紳士なアークゴブリン・闇とか厳しいけどかっこよすぎる鬼人とか残虐なロード・オブ・オークとか迷宮の仲間たちを失うことになる。


 何より、タキエルと会えなくなる。


 だから、俺には女神に消えろという選択肢なんて端っからなかったのだ。


 むしろ


「俺を次の大魔王に任命してほしい。それが願いだ」


 俺は両手を広げ、なるべく主人公っぽくなるようにかっこいい声でこの上なく主人公っぽくない宣言をする。

 俺の斜め前にいるベリアルは爆笑で、大女神は少しイラついているように感じた。


「それは……貴方が、そこの大魔王に取って代わって世界中の人々を苦しめる――そう言っているのですか?」


「そうですね。俺はもう引き返せないところまで世界を侵略しちゃったし……どうせなら世界の全てを俺の手中に収めたい!!」


「なるほど。酷く人間らしい……傲慢な野望ですね。しかし、なるほど人間らしくて素晴らしいと思います。良いでしょう。貴方の願い聞き入れ、叶えて上げましょう」


「あっ、ありがとうございます……。これで、世界の全てが俺のものに……」


 ノリノリで回る俺の口から流れた言葉の半分は本音だ。


 ここまで来たら後に引き返せないし、どうせならど派手に大魔王の肩書きを貰ってから世界征服をするのも悪くないと思っている。

 しかしそれ以上に、俺が大魔王になりたいと言った理由は俺の仮説が大きく占めているのも確かだ。


 俺は今の世界を侵略し、征服しても、逆に侵略を辞めても、結局女神に支配された世界の茶番劇に過ぎず、そしてどのルートを辿っても俺は多分5年以内に死ぬ。


 大魔王になった以上、女神とかに生き返らされた勇者に俺は最終的には殺される。

 大魔王にならなくても、あの勇者の恨みを買った俺はいつか奈落の木阿弥を攻略されて殺される。

 全てを投げ打って許しを請うても、そもそもパーティメンバーすら「ザコだから」という理由で俺を殺そうした勇者が見逃してくれるはずもない。


 百歩譲ってこの世界が茶番劇でも別に俺は構わないのだ。


 しかし、その茶番劇のシナリオにどう通っても俺の死が必ずあるというのなら、俺はこの茶番劇をかき乱さなければならない。


 だから、俺は大魔王になることを望んだのだ。


 いつか、この死のシナリオを大女神の懐に入り込んでバキバキにへし折るために。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る