vs大魔王

 アメリカはニューヨークの自由を脅かすように、でかでかと立てられた最強の魔王の魔王城。

 三十年前はおおよそ世界の中心と言っても過言ではなかったこの場所は、今や凶悪な魔王に支配されて世界最悪の危険地帯の一つと化してしまった。


 ……まぁ世界の中心だったのは俺の生まれる前の話だから、俺にとってニューヨークはとにかく厄介な魔王がいる街以外の何物でもないのだけれど。


 そんなニューヨークの魔王城の中には、大勢の悪魔がうじゃうじゃといる。


 元々最強の魔王は悪魔族であることはかなり有名で、その部下もまた当然のように悪魔だった。

 しかし、その魔王を攻め入り今大魔王まで引き摺り出した立役者であるベリアルもやはり悪魔だった。


 そして魔王城にいる悪魔は、魔王を除いて後は全部ベリアルの配下。


 それと、大魔王もいるが大魔王は悪魔族ではないらしい。


 スクリーン越しの鑑定だと少しぼやけて見づらいが、種族的には邪神族のようだった。だが、邪神だろうが大魔王だろうが、ステータスを完全状態に強化されたベリアル相手には為す術もないらしい。

 魔王も大魔王も防戦一方だった。


 魔王を包み込むように身を挺して守る大魔王に、容赦なく極大威力の魔法を打ち込み続けるベリアル。

 これじゃあどちらが悪者なのか区別が付かない。


 いや、どちらも悪者なのか。


 ……俺は、ベリアル側の圧倒的な優位を確信してスクリーンに映る場所まで瞬間移動する。

 弱った魔王の支配領域をDPで上書きするのはそう難しいことではなかった。


「なぬ!? わ、我が支配域が!」


「ククッ。油断しましたね。チェック」


 俺がその場に着いたその瞬間にちょうど、ベリアルの魔法で魔王が殺され――大魔王を守る無敵の結界が霧散する。

 つまり、大魔王を殺せるようになった。


 大魔王のステータスはいつか見た、ロード・オブ・バフォメットと同じか少し劣る程度。しかし完全強化された俺たちの敵ではなかった。


「蛇公……」


 シュルルルッ!

 そんな大魔王をベリアルが殺す前に俺は白蛇をけしかけ、大魔王を拘束させ、そのままレベルドレインでレベル一にさせた。


「ククッ。最後の一撃はとっておきましたよ、マイロード」


「あと一秒来るのが遅かったら大魔王は死んでたような気もするけど?」


「ククッ。気のせいでございましょう」


 不気味に笑う、のっぺらぼうの悪魔ベリアル。

 のっぺらぼうという割に、三日月に歪む口だけはあるのがまたファジーで気持ち悪い外見だと思った。


 と言うかベリアルの配下の見た目は腕が多かったり歯の形が異様だったりねばねばしていたりとベクトルこそ違うが、気持ち悪い外見の悪魔ばかりだった。

 どこかの自称ハーフエンジェルな悪魔を見習って、もう少しだけキャラデザを頑張っていただきたかったと思う。



                  ◇



 レベル1になってしまった魔王の姿は酷くやせ細っているせいで、男なのか女なのかも解らない唯々酷く貧しく一緒にいるだけで活力を持って行かれそうな、奇妙な外見をしているやつだった。


 先程と同じく黒いマントに、じゃらじゃらとした装備は相変らず。


 しかし先程見せられた巨大な男に見えた大魔王は一体何だったのだろうか?


 しかし、今はその話は良い。


 俺は機会があれば直接大魔王に聞いてみたいことがあったのだ。

 余裕がなければ死んでくれても良かったのだけれど、今回は余裕があったし、今もいざとなれば白蛇がドレインで魔王を吸い尽くせるように魔王の周りに纏わり付いている。


「……お前が大魔王だよな」


「ええ。そうよ」


 ……女だったのか。


 それは良い。俺はこの女に聞きたいことがあった。

 それはいつか子供の頃にふと思いついた疑問で、小さな事が原因で俺の個人的な心のしこりになった質問だった。


「お前ら魔族に……大魔王とか魔王とか一部のモンスターに魔法とかスキルを与えた存在は誰だ?」


「それを知ってどうするつもり?」


「どうもこうもない。俺の私的な疑問だ……子供の頃からの、な。なぁ、大魔王。お前たちに魔法やスキルを与えた存在……それは大女神率いる女神たちなんじゃないか?」


「……例えそうだとして、私がそうだと言うと思う?」


……確かに、言うとは思わない。しかし、大魔王の代わりにベリアルが口を挟んだ。


「ククッ。元は人間でありながら、その考えにたどり着けるとは……感服の極みですマイロード」


「って言うことはやっぱり」


「はい。魔法もスキルも全ては大女神率いる女神に与えられたものです。私たちやモンスターも魔法もスキルも、全ては人間と同じように」


 のっぺらぼうの口を相も変わらず三日月にへしゃげて、いつもより楽しそうにケタケタと笑うベリアルの言葉は少し胡散臭いように感じる。

 確かに俺は子供の頃その思考に至り、先生に質問し、殴られた記憶がある。


 だが、全てのスキルも魔法も大女神が統括しているとすれば、それは最早この世界の存在そのものが茶番と言っているように等しい。

 人間側視点から見れば、ある意味大女神の完全マッチポンプ。


 女神のオカルトを与えた存在に地球を侵略させ、その地球を同じオカルトで救済する。何故そんなことをするのか。

 ここに、女神と敵対しているモンスター側はなにを求めて行動しているのか。


 そこで俺は一つの仮説を思いつく。


 そしてその仮説を証明するかのような天変地異を呼ぶ強烈な光が、この魔王城を満たす。

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