世界の仮説

 気が付けば、いつの間にか大女神はいなくなっていて俺は確かに『大魔王』になっていた。

 あれだけ溢れきっていた光の後に見る、このどんよりとした廃城はなんというか、酷く凄惨で惨めなものであるかのように思える。


「……そう言えば、俺、別に大魔王を倒してないよな? レベルドレインして捕縛していただけだし」


 尤も、それは単に大女神が降臨した時に殺したのだろう。


 大女神の立場を考えればそう不自然なことでもないだろう。

 大魔王の敵であり、人類の希望としての大女神ではなく――この世界の黒幕としての大女神としての立場ではあるが。


 俺の考察していた仮説は、大まかにこんな感じである。


 まず、この世界の黒幕は大女神である。


 それを前提とした時に、今、人類とモンスターが争っている事によるそれぞれのメリットを人類、モンスター、女神ごとに考えて行きたい。


 まず女神だが、彼女たちが裏で手を引いているというのでこの人類VSモンスターの構図は大きなメリットがあるのだろう。

 それが、人からの信望を集めて力になるのか、単なる娯楽なのか、是界をぐちゃぐちゃにして漁夫の利を得たいのかはたまた別の理由なのかは知らないが、女神たちが起こしている以上、相応のメリットがあるのだろう。


 それが具体的になにかまでを予想するのに必要な情報は揃ってないからなんとも言えないが。


 次ぎに人類だが、人類が争う理由は完全に成り行きである。


 成り行きで異世界から侵略してきたモンスターを、成り行きで女神たちから与えられたスキルなり魔法なりを利用して駆逐しようとしている……それだけに過ぎない。

 人間は竹島然り、パレスチナ問題然り。自分の領土を侵されようとすれば重火器を取り、同じ人間を殺そうとする業の深い生き物だ。


 流石に大魔王に支配された今の世じゃ、人間同士でのみみっちい争いをしている余裕なんてないのだが、それでも、人類の領土である地球を異世界のモンスターに侵されそるというのなら、かつて戦争を起こしたように、モンスター相手に自分の領土を守ろうと全力を賭すのは、容易に想像の付く話だ。


 だが、モンスターはなぜこの世界を侵略しようとするのだろうか?


 かつて彼らに魔法やスキルを与えた存在は女神であるが、今、地球上ではその女神たちと敵対しているのだ。

 女神と敵対しているのに、この戦争は誰よりも女神が得をしていて、それ以上に、モンスターたちは大きく損をしているように見える。


 どういう理由で女神が味方をするこの地球に侵略してきているのか。


 どういう理由があって彼らは、人を襲うのか。


 その理由を考えた時に、俺は大魔王という存在は『邪神』と表記されていたが、アレは普通に女神だったのではないのだろうかと思う。


 今となっては消滅してしまって聞くことも出来ないし、もしかしたら、他の理由があるのかも知れないが、現状の情報を整理すると、大魔王が女神そのものである方がしっくりくる。

 そうすれば女神の利益のためにモンスターを使い潰すようなことをするのも理解できる。


 俺が攻略した時の奈落の木阿弥がざるだったのも、30年かけて人類の成長に合わせるかのようにモンスターが強くなっていったのも、大魔王の正体が女神だったというのなら得心がいく。


 ただ、もし本当にそうならどうして俺の願いを叶え大魔王として認めてくれたのかが解らない。


 気分屋で飽き性で、数秒前に言った言動も都合が変わればあっさり撤回してしまう身勝手極まる生物である人間に、そんな大役を認めるだなんて、願っておいてなんだけど大女神の気が知れない。


 ……俺がいつ、女神を裏切るとも解らないだろうに。


 しかし、そんな常軌を逸した考えをしてしまうあたり彼女たちが超常なる女神である証拠とでも言うべきか。

 う~ん。正直段々考察するのにも飽きてきた。


 どうせいくら考えたところで俺のするべき行動が変わるわけでもないし……。


「よしっ、帰るか。ベリアル後はよろしくね……っと、そうだそうだ」


 俺は瞬間移動で自宅に帰ろうとして、そう言えば自分が大魔王になっていたことをすっかり忘れていた。

 俺が大魔王になったのであれば、かつての大魔王のように魔王を設置することも可能であろう。


 と言うか鑑定で自分を軽く調べてみたら、そう言うこともできるっぽいのだ。


 他にも『第二形態』とか『大魔王の執念』とか色々大魔王っぽいスキルに加えて、基礎ステータスを上げたり魔力を高めたりとか色んな恩恵があるみたいだった。

 それは後々確認するとして、とりあえず俺はベリアルを魔王に就任した。


「ククッ。これは、力が漲ってくるようです」


「昇華の時以来かな?」


「いいえ、アレには遠く及びませんがねぇ」


 しかし、ベリアルのステータスの上がり方は凄まじかった。……俺も強化されたんだけど、ベリアルの強化幅と比べればゴミみたいなものに感じてしまう。


「まぁ、いいんだけどね。ハッ! じゃあ、あとよろしくね……」


「御意に、マイロード」


 今度こそ、俺は瞬間移動によって自宅に戻った。



「あっ、おかえりなさい。マスターさん!」


「うん。ただいま。そう言えば聞いてよ。俺、さっき大魔王になってさぁ。ちょっと見せたいものがあるんだよね」


「なんですか?」


「それはね……」

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