特製辛麺

 特製担々麺もどき――それはテレビを見ていた時に思いついた俺のおすすめグルメ『辛麺』と名付けた。

 作り方は簡単。

 どんぶりにラー油とめんつゆとポン酢を目分量で入れて、ナツメグを振りかけた特製ダレに中華麺をぶっ込んでかき混ぜるだけという、料理と言っていいのかさえ謎な手抜きレシピ。


 今日は少し凝ってポン酢の代わりに、米酢で割ったチャーチューを煮ていたときのタレとめんつゆを使う。


 割合としてはラー油、ポン酢、めんつゆを1:1:1にナツメグ少々。計ったことないからレシピには出来ないが、まぁフィーリングで試してみてくれ。


 いつも通りのタレを絡めただけの辛麺に、今日は刻んだネギとさいの目切りにしたチャーシューを並べた。

 お好みで卵黄を落としても、さらに唐辛子を増やしても美味いだろう。


「「いただきます」」


 ズズズッと豪快に麺を啜る。


「んっ! これ、スッゴく美味しいです!! ……でも、スッゴく辛い!」


「それな。今日はかなり抑えめにして作ったけど」


「これで抑えめ?」


「本来はこれに唐辛子をかけて、胃がヒクヒク言い出すまで辛くするからなぁ。ストレスとか溜まった時におすすめだ」


「……マスターさんも大変だったんですね」


 タキエルに憐憫の視線を向けられる。

 しかしまぁ、クソみたいな過去なんて思い出しても仕方がない。

 俺は、タキエルとこうしてのんびりだらだらしてしまえる平和な日々が好きだった。


 ……やっぱり世界征服止めちゃおうかなぁ。


 いや、でもなぁ。世界征服しないと勇者だけがドンドン強くなって結局狩られちゃうから、できる限りのことはしておかなければならないって言う……。


「そうですね。今、思いつきました。罰ゲーム」


「ほう?」


「今日は、マスターさんの辛い過去を忘れて貰うためにも初心に返って赤ちゃんプレイでもしましょう!」


「それ、初心に返っての使い方違うくないか!?」


 その表現だと、俺たちの最初のプレイが赤ちゃんプレイと言うことになってしまう。どんな変態カップルだよ。

 あと、それ食事中にする話じゃないだろ。チャーハンのどに詰まらせかけたわ。


 そんな止まらないツッコミを内心に抱えつつ、今日の昼飯も終わった。


 白蛇もチャーハン・辛麺共に美味しそうに平らげて今は満腹そうにずりずりと外に這い出てひなたぼっこしに向かった。

 蛇なのにひなたぼっこして良いのか? と思わないでもないが、まぁ神獣なので問題はないだろう。


 タキエルとの赤ちゃんプレイはまぁ、スゴく恥ずかしかったけどなんだかんだで楽しかったとだけ書いておく。

 あんまり濃密な解説をしてこの世界が消されてしまっては事だからな。



                 ◇



 そんなこんなで更に二週間の時が流れる。


 アフリカのワイズ・トロールを初めとして、ロード・オブ・オーク、ノーライフ・キング、バフォメット・オーガ・ラプラスが、それぞれの大陸を支配している魔王を撃破していった。

 後はラプラスが魔王を撃破すれば、南極で引き籠もっている大魔王を倒しに行くことが出来る。


 実は、大魔王には不死の結界というものがあるらしい。


 絶対的なバリアというかなんというか。そして、そのバリアを維持しているのは各地に点在する魔王なのだ。

 故に、大魔王を倒すためにはこの世界に散らばる魔王を倒さなければならない。


 逆に言えば、各地の魔王を滅ぼしてさえしまえれば大魔王をも倒すことが出来る。


 ここまで来れば最早チェック。


 ベリアルが残る最強の魔王を倒してしまえば、チェックメイト。

 完全強化された鬼人をけしかければそれだけで万に一つの負けもない。


 もうすぐ、もうすぐだ。


 世界の支配権が、大魔王から俺に移るまでもうすぐ。


 うずうずする。ワクワクする。ドギマギする。

 世界の全てを奈落の迷宮の領域にして、世界を脅かす魔王を滅してしまえれば人類の敵は奈落の木阿弥だけになる。

 そして、現状の戦力を考えれば人間の街を全て支配するのもそう難しくない。


 世界はもうすぐ俺の手中に収まるのだ。


 それがいかほどの価値があるのかも解らない。

 それでも「世界征服」ってロマンじゃないか。


 それに、俺は学生時代はハブられて結局不登校気味になって、卒業しても暫くニートで、無理矢理就職させられた衛兵では怠け者で、所属していた勇者パーティではザコだった。

 そんな俺がなにか大きな事を成し遂げる。


 例えその力が偶然拾い上げたものでも、例えその功績が強力な仲間たちのおかげであったとしても、いや、だからこそ。

 世界が大きく動こうとしている。俺は今、その変動の渦中にいる。


 その事実がとてつもなく嬉しかった。


「俺にでも」だなんて卑屈な事を言うつもりはない。

 ただ、あんな俺が歴史上誰もが成し遂げることが出来なかった世界征服という者を実現しようとしている。


 想像が付かない。イメージが沸かない。


 それでも、そこはかとなくワクワクした。


 あとは、ベリアルが魔王を討伐するのを待つだけ。

 そうすれば、一気に事が動く。

 俺はソワソワしながら待っていた。


 そして連絡が来る。


「ククッ。魔王軍を壊滅させて、魔王の首を刎ねようとしましたら大魔王が現れてしまいましたよ、マイロード」


「マジで!?」


「はい。大魔王自ら盾になって、時間を稼いでおられます。あの絶対バリアを逆手に取った作戦に、笑いが止まりません。ククククッ」


「…………」


「十分後にこちらに来てください。その時までには始末できそうなので」


「あぁ、うん。解った」


 俺はベリアルのいる場所をスクリーンに映した。

 

 

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