アジア侵略作戦

 勇者のあまりにも凄惨な死に様。


 例え生き返るとしても。生き返らないとしても、あんな残虐な光景はかなり堪えるものがあった。

 全裸の勇者がギロチン台に固定されて、膣内から犯すように、比喩でも何でもなくロード・オブ・オークの槍に貫かれて、そのまま脳天まで槍を貫通させて、死んだ。


 赤い液体と黄色い液体と桃色の固形物と吐瀉物と透明の液体と色々吹き出しながら目玉とかも飛び出させて、勇者は死んだ。


 聖女と賢者の死に様も確かに惨かった。

 散々犯された挙句に、オーガズムと同時に首を落とされていたんだ。

 オークに犯された挙句に絶頂を迎える――少なくとも魔王討伐を掲げる勇者パーティの女としてこの上ないほどに屈辱的な瞬間に死を迎えるのだ。


 あれほど酷い最後はない。


 でも、それ以上に勇者の死に様がグロかった。純粋に映像としてグロかった。


 首を落とされた賢者と聖女の姿がグロくなかったわけではない。

 ただ、あの死に様は予想できていたし、勇者パーティでの戦いにおいては人型のモンスターが首を落とされて死ぬ光景なんて日常茶飯事だった。


 でも性器に槍を突っ込まれてそのまま脳天まで貫かれて死んだモンスターなんて見たことがない。


 俺はすっかり忘れていた。

 ロード・オブ・オークは歴としたモンスターなのだ。

 少なくとも、敵を処刑する際にあんな残虐な方法を用いれてしまう程度には頭のねじがぶっ飛んだモンスターなのだ。


 あの景色がフラッシュバックし、吐きそうになる。


 でも吐かない。

 俺は今、タキエルの膝の上にいるからだ。


 俺が勇者パーティの処刑のショックを受けている間に、タキエルが帰ってきたんだろう。いつの間にかテレビは消されていて、気が付けばタキエルに静かに膝枕をされていた。

 何分、何時間俺はこうしていたのかも解らない。


 ただ、喋る気力も出ないほどにショックで放心している。


 いつ終わるとも解らないのに、タキエルはなにも聞かずに膝枕をしてくれていた。涙が溢れてくる。

 嬉しいのか哀しいのかショックなのか辛いのか怖いのか。

 自分の感情が解らない。


 俺は寝返りを打ってタキエルの太ももに顔を埋める。


 泣き顔を見られるのが恥ずかしかった。それでも、タキエルに包まれて泣きたかった。


 タキエルは俺の頭を撫でたり抱きしめてくれたりする。


 なにか言葉があるわけではない。

 でも、無言の暖かみは俺の心に深く刻まれた傷痕を癒やしてくれる。

 ずっと泣いていたい。ずっと撫でられていたい。ずっとこうしていたい。


 ……俺はとても愚かな男だ。


 ちょっと優しくされただけだって言うのに、タキエルのことが今まで以上に好きになってしまったのだから。



                 ◇



 三日ほど、俺は三日ほど自宅に引き籠もった。


 暫くショックを受けて、タキエルに散々甘えて。甘えて少し気分は持ち直したけれど、やはり、知り合いの無惨な死というものは思いの外トラウマになったみたいで、タキエルとご飯食べたり、ゲームしたり、エッチしたり。

 割と平常運転的な日常を過ごしながら、引き籠もっていた。


 でも、そろそろ外に出た方が良いだろう。


 俺はタキエルに行ってきますのキスをしてから、瞬間移動で東京の――ロード・オブ・オークの元へ向かった。



                ◇



「なに? 東京は我ではなくアークゴブリン・闇に任せるだと?」


「ああ」


「何故、何故だ……東京を攻め入ったのはゴブリン共ではなく、我であるぞ!」


「そうだな。先日の東京侵略の作戦は見事だった。東京を落とすまでの速度、落とした後の統治、勇者の処刑に至るまで、全てが世界最難関の奈落の木阿弥のモンスターとして恥じぬ素晴らしい働きであった」


「であれば……」


「だからこそ、ロード・オブ・オークお前にはこの東京は……いや、日本は些か以上に狭すぎる。キミには今から日本海を渡り、引き続き侵略を続けて欲しい。次は、アジアを侵略する。

 アジアを制覇した暁には、その領土は全てロード・オブ・オーク、キミのものだ」


「……はっ! であれば我は全力を賭して、主殿に忠義を尽くすまで!」


 現金なやつめ。跪き、目を輝かせるロード・オブ・オークを見下ろしながら俺はコアを召喚する。

 そして、迷宮の領域をとりあえず中国――いや面倒だな。

 どうせアジアを侵略すればその次は世界を狙うことになるんだ。だったら予め、全てを迷宮の領土にしておいた方が手っ取り早い。


 俺はDPを費やして世界中を迷宮の領域と化する。


「と言うわけでお願い」


《承知しました。地球上全てを迷宮化するには15兆DP消費しますがよろしいでしょうか?》


「構わない……ってそんなにするの?」


 いやまぁ、地球の半径が約6400kmだから二乗して4096万kmになってそっから12.56かければ五億ちょっと。

 1km²あたり一万DP必要だから、5兆で済みそうだが……まぁ山とかあるしそんなもんか。


 世界を迷宮の領域にするために必要なDPが五兆。一京DPのストックから見れば多いのか少ないのかもよく解らない。

 地球は広いようで、思ったより狭いように感じる。

 そんな狭い世界のごくごく一部に生きている自分は更に小さい。


 なんというか、色々と考えさせられる数字だった。


「後は転移陣を設置して……」


 俺は新潟の佐渡島まで瞬間移動して、金山の廃坑に中国まで繋がる転移陣をいくつも設置した。オーク達にはここから攻め入って貰おう。

 その意図を彼らに伝える。


 中国にもインドにもモンゴルにも勇者はいるだろう。


 それでも、東京をいとも容易く壊滅させたロード・オブ・オークなら侵略してくれるだろうし、出来なかったら……まぁその時だ。

 正直、もうロード・オブ・オークにはショッキング映像を見せられたこともあって苦手意識もあるし。


 正直どちらでもいいが、どうせならまぁ迷宮の支配地を広げて欲しいとは思っている。


 そんなことをぼんやり考えながら、次の準備を進めるために、また迷宮に戻った。

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