決着! VS勇者

「蛇公。後はお願い」


 シュルルッ! 俺が一言声をかけると懐から出て、白蛇は勇者に巻き付き、レベルをドレインする。


「ひ、卑怯よ!! 一対一の勝負じゃなかったの!?」


 勇者に近づき、回復魔法をかけようとする聖女に白蛇が巻き付き、ついでにそれが終わったら賢者にも巻き付いて、それぞれのレベルを1にした。

 勇者パーティはまたレベルが1に戻った。

 鑑定で見ると明らかなように、スキルがなくなっているわけじゃないし、それに勇者達がこれまでの戦いで得た記憶もなくなるわけじゃないから、完全な弱体化とは言えないが、レベル1のステータスなんてカスも良いところなので、もう安心して良いだろう。


「……そうよ。私はまだ戦えたわ」


 勇者が恨みがましく俺にそんなことを言ってくる。しかし……。


「否。先程の主殿の胴への見事な一閃、あれは誰が見ても主殿の見事な勝利であるな。言い訳とは見苦しいぞ、勇者」


 ロード・オブ・オークは勇者に厳しく言い放つ。


 おおむね俺も同意だった。

 脇腹へ入れた一閃は、敢えてというかなんというか、流石に顔見知りで美少女な勇者の上半身と下半身を切り離す度胸はないけど、寸止めできるだけの技量もないから中途半端な切り口になってしまったが、しかし、剣道なら一本を貰えても良いくらいの綺麗な胴だったと思う。


「ぐっ……。で、でも……」


 言い訳がましく食い下がろうとする勇者も、一応今回の一騎打ちは俺の勝ちだと解っているのだろう。


 情報戦的に、そもそも俺の方が圧倒的に有利だったことも含めて。


「それに、勇者。キミは俺のステータスをしっかり見た? 鑑定スキル使えるんでしょ?」


「そんな、見たわよ。確かにステータスは平凡なはずじゃ……。……なによ、この補正値。尋常じゃないわ。……スキルも合わせれば……わ、私の五倍……?」


「そうだ。最低限彼我の力量差が理解できていなかった時点でお前の負けは決まっていたんだよ」


「どうして。確かに見たはずなのに」


 その答えは簡単。昇華を重ねると、魂の格が上がる。人のステータスを鑑定で覗く時普通は人の魂を通してその強さを見るのだ。

 故に、鑑定はレベル差では防げないが、昇華を繰り返せばある程度防げるようになる。


 それに気付いたのは、アークゴブリン・闇を完全強化した時。俺の三倍以上もある昇華上限を限度まで上げた時、俺の鑑定眼がアークゴブリン・闇のステータスを見た時曇ったのだ。

 だから、俺はあの時上がった分のステータスを解説できなかった。


 どれくらいステータスが上がって、どれほど強くなったか説明できなかったのだ。


 だが、それを態々勇者に教えてやる義理もないので「自分で考えろ、バーカ」とだけ言っておいた。

 勇者は憎々しげに歯がみをしていた。



                   ◇



「自分で考えろ、バーカ」


 中指を立てて舌を出す、元荷物持ちの男にふつふつと憎悪が湧き出て止まらなかった。確かに、さっきの一騎打ち、結果的に私は負けてしまった。

 レベルを吸い取る白蛇と、後ろの――恐らくこの前会ったゴブリンとは比べものにならないほどに強いであろうオーク、そいつらと戦っても勝てないことを承知の上でそれでも、あの男の前に姿を現したのは、単に、私や賢者や聖女の家族が今回の襲撃によって死んでしまったからである。


 そもそも私たち勇者パーティの使命は魔王を討伐すること。その為に、大女神様から様々な寵愛と恩恵を受け取っているが、その一つに、魔王討伐の旅路で死んだとしても生き返れる、と言うものがある。


 そのトリガーは私が死ぬことで、それ故に自殺が出来なかったりパーティメンバーに殺して貰うという形での強引な蘇生も出来なかったりする上に、一定以上の期間が過ぎてから私が死んでもパーティメンバーは生き返らないとか、色々とデメリットがあるのだが……今は関係ない話だ。


 とにかく、死んでも生き返れるし。今回は上手くいけばあの男が殺せる上に、親の仇であるモンスターもあの奈落の木阿弥もまとめて潰せる上に、失敗してもどうせ全滅するだけだから生き返れる。

 そう高をくくって、私たちは……いや、私は彼らに挑んだ。


 しかし、今レベル1に戻されてあっさり拘束されてしまった今、冷静に考えると、軽率だったとしか言えない。

 勝てないと解っているのなら、挑まず、この惨劇への激情を抑えて、どうにかやり過ごす方向に全力を賭すべきだった。


 なんだかんだで人口一千万人以上いる東京だ。その気になれば身を隠すことなんていくらでも出来ただろう。


 そうでなければこうして捕らえられて、レベル1に戻されて。

 今回は二度目だから、もしかしたら前回より酷い目に遭って帰されるはめになるかもしれない。

 あの男も前回逃がした辺り、私が死んでも蘇るであろう事は予想できてたっぽいし。


「勇者さん……」

「勇者様……」


 あぁ、惨めだ。涙が流れてきそうだ。

 それでも、私は意地で泣かなかった。


 私は父と姉と、従兄弟を三人なくした。聖女は兄を亡くし、賢者は学生時代の親友をなくしたらしい。

 仇を討ちたいと強く思ったし、今も思う。

 それに、前回味わわされた屈辱だって返したい。


 復讐したい。殺したい。その罪をその身に思い知らせてやりたい。


 私の、私たちのそれぞれの怒りが哀しみがやり過ごすという選択肢をなくし、視野を狭めてしまった。

 本当に復讐をしたいなら今は耐えるべきだ。

 例えどんな屈辱にも、苦痛にも。耐えて、耐えて、耐えて。


 そして、次は万全の状態になってあの荷物持ちだった――今は世界の敵であるあの男をぶち殺す。


 大魔王を討ち滅ぼす前に、勇者である私が責任を持ってあの男を討ち滅ぼす。


 私は堅く、決意した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る