攻略! 闇雲の深海
『た、謀ったわね!』
「謀ったもなにも、お前の計画がザルなんだよ。バーカ」
悔しそうに怒り散らす迷宮主にべろべろべろと、これでもなく煽り散らす。これでも、色々と緊迫したし、色々と鬱憤も溜まっているのだ。
「あ、そうだ」
まず、色々と解説をする前に――
「ゴメン。用事は済んだから、また侵略再開してちょうだい」
『はっ。私の持つ全力を賭して期待に応えて見せましょう」
プツン。……これでまぁ、こいつらが攻略されるのも時間の問題になっただろう。
「さて、なぜお前の計画がザルなのか説明すると……って、あれ?」
さっきまで、褐色肌の人魚が映っていたスクリーンは最早なにもなく――つまり、切られていた。
「そりゃそうですよ、マスターさん。それより、さっきの茶番ってどういうことですか? 私的にはそっちを説明して欲しいんですけど?」
……あれ? もしかして俺、墓穴掘った?
◇
まず、俺が最初に活路を見出したポイントは最初のタキエルが敵方の迷宮主の手に渡ってしまったことが発覚したあの通話だった。
あの迷宮主の奥、よく見ると小さな通気口ならぬ通水口的な、正方形の穴が空いていたのだ。
あの人魚の迷宮主がいた部屋はさして大きくなかったし、あのサイズの部屋に海水をただ止めておけば腐ってしまって衛生的にも気分的にもよろしくないだろう。
だから、その口があることに不自然を感じないのだが、俺はアレを見た時ふとひらめいてしまったのだ。
「あれ、白蛇通れるんじゃね?」と。
闇雲の深海と同じく世界最難関と言われる奈落の木阿弥ですら、なんでも切れる『至玉の剣』で穴を掘って攻略するという残念な形に終わったのだ。
だったら、闇雲の深海もあの口に侵入者対策とかしていないだろうと予想した。
ここは完全に賭けだったが、まぁ蛇は細く小さくなれるし網が張っててもワンチャン行けると思っていた。
後は、如何に早くアンデッドよりも早く白蛇をたどり着かせて、奇襲的にタキエルを救出できるかの勝負。
しかし、何よりの誤算だったのは、あのアンデッド軍団の強さである。
いくらできる限りの強化と進化をした上に、それなり以上の装備をばらまいて、ノーライフ・キングやカルタゴに稽古をつけさせて二週間以上放置したとは言え、強くなりすぎだった。
お陰で、タキエルの身が本当にヤバかった。
完全に結果論だけど、アンデッドたちと深海の闇雲の間にこれだけの実力差がるのなら最初からガッツリ引き留めていても良かったかもしれないが、しかし、その引き留めで逆にこの迷宮で甚大な被害が出てしまえば、俺がノーライフ・キングに恨まれていた可能性もある。
人に恨まれる以上に怖い事なんてないので、俺は我が身かわいさに色々と迷っていたのだ。
……まぁ。そういう訳でぐずぐずしている内に、本格的にタキエルがヤバそうになったから、俺は時間稼ぎに茶番の演技を仕掛けたわけである。
タキエルが大粒の涙を流して、いきなり一目惚れ宣言をするという予想外の事態が起こって少し俺は焦ったし、かなり申し訳ない気持ちになった。
それが、タキエル救出に至るまでの大まかな流れである。
「……なるほど。そういうわけだったんですね」
これまでの流れを正座で説明した俺をタキエルも白蛇も白々しい目で見つめてくる。うぅ。本当はあの人魚の迷宮主に向かってビシッと種明かしをしてから、どや顔かまして気持ちよくなる予定だったのに……。
「あぁぁ。なんですか、もうっ! 私、とんでもなく恥をかきました!」
「わ、悪かったよ……。それに、そのタキエルの言葉を聞けて嬉しかったし」
「う、うぅぅ。わ、忘れてください!!」
「忘れませぇん。むしろ、暫くこのネタで弄るまである」
「ぬっ? だ、だったらタキエルちゃんも恥ずかしくて、え、エッチなこととかできなくなります」
「ぐぬぬ……」
中々に痛いところを突いてくるな。
色々と邪魔が入ったけど、童貞を捨てられるチャンスだったし。そうじゃなくても、色々頑張ったから結構「そろそろ。そろそろ、良いんじゃね?」って俺の息子も言っているし。
「解ったよ。忘れる。忘れるから……」
俺は手を挙げて降参のポーズを取る。負けを認めるのは些か癪だが、背に腹は変えられないし……それに、さっきの通話ログは一応迷宮者権限で保存しておいたしね。
「……だったら、これも忘れてくださいね」
チュッ。
唇に、タキエルのぷるりとした唇が被せられる。――目を瞑って、顔を真っ赤にしているタキエルの顔がちょー近い!
なんかスゴくまつげ長いし、良い感じだし。
これはあれですかね。人生初のファーストキッスてやつではないでしょうかね?
「その、助けてくれてありがとうございました。続きは……色々と片付いてからしましょう」
タキエルは恥ずかしそうに、俺の家の方へ向かって去って行く。
頭がぽわぽわして、ふわわ~としてなんというか。うん。幸せな心地で悪くない。
俺にしてはかなり頑張った後のご褒美だと思えば、ファーストキスの味は格別。――タキエルの唇に残る海水の塩味は、俺の身体に心地良く染み渡った。
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