勝戦処理

《『奈落の木阿弥』は『深海の闇雲』との迷宮戦争に完全勝利しました。『深海の闇雲』は『奈落の木阿弥』に統合されます》


《『奈落の木阿弥』の領界が増えました》

《『深海の闇雲』のモンスター及び迷宮主が『奈落の木阿弥』の迷宮主の支配下に下りました》

《三千七百兆DPが統合され、一京千三百八十兆DPに加算されました》


 ファーストキスの余韻に浸る間もなく、コアから機械的なアナウンスが迷宮内に響く。

 それと同時に、電話が鳴った。


『マスター。深海の闇雲及び闇雲の深海は完全攻略致しました』


「あ、うん。そうみたいだね。お疲れさま」


『はっ、もったいなきお言葉……。それで、以降の処理は如何なされますか?』


 ……う~ん。やっぱり最低限顔くらいは出しておいた方が良いんだよね。


 本音を言えば、全部ノーライフ・キングに丸投げして俺は今すぐタキエルと大人の階段を上っちゃいたいところだけど、そのタキエルからも、処理が終わってから……って言われてるし。

 それに、俺は迷宮主だ。


 正直、さっきのキスで色々と昂ぶって仕方がないけどやはり初体験はやるべきことやって、心置きなくしたい。


「……じゃあ、とりあえず十二階層に移るから。そこに、迷宮主だけ連れてきておいて」


『承知しました』


 電話がぷつりと切れる。



                  ◇



「ねえ、今どんな気持ち? ねえ、ねえ。人質までとって卑劣な手を使ったにも関わらず、こんなにもあっさり敗北しちゃって、捕虜になって、ねえ、今どんな気持ちなの?」


「……そうね、後悔しているわ。貴方の恋人をとっとと殺してけば良かったって」


 十二階層で待つこと数分。迷宮戦争のために繋がれた入り口から、ノーライフ・キングとアンデッドの軍勢、そして褐色の色気ムンムンな人魚の迷宮――おっと、元迷宮主が出てきたので、俺は、さっき通話を切られた鬱憤を晴らすが如く、これでもかと言うほど煽っていた。


 拘束されていてなにも出来ないが、非常に苛立っている元迷宮主を見ていると、気分が良かった。


「……人質……卑劣な手……恋人……なるほど。そういう理由でしたか。マスター。先程の戦争時、タキエル様が人質に取られていたんですね」


「……うん。まぁ」


 流石ノーライフ・キング。悠久の時を生きるだけあって察しが良いが、今の応答だけで察するとか、スゴいな。色々な意味で。


「はぁ。だったらどうしてもっと早くこの私に言ってくださらなかったのですか?」


「え、いや迷惑が掛かると嫌だなって」


「とんでもない。大方、そこの女に侵攻が進めばタキエル様を殺すとでも脅されていたのでしょうが……タキエル様を助けられている以上マスターにもなにか策があったとお見受けします。

 であれば、その間こちらの被害を出さずにやられた振りをすることなんて造作もないことでしたのに……」


 そ、そうなのか。だったら、もっと早く言えば良かったよ。そしたらあんな茶番もひやひやすることもなかったのに。


「……出過ぎたことを申し上げました。処分はいかようにでも」


「いや、別に処分はしないけど。俺も急な進軍休止を命じて混乱させたし……まぁ次からは、しっかりとするから」


「……寛大な処置に感謝申し上げます」


 寛大なのはむしろノーライフ・キングの方だ。結果的に戦争には勝てたし、タキエルは無事に戻ってきた。

 だけど俺の中途半端な判断で一歩間違えばタキエルを失ったかもしれないし、こちら陣営に甚大な被害をもたらしていたかもしれないのだ。


 だから、次はもっとしっかりとする。


 この奈落の木阿弥が自動的に成長していくように、迷宮主である俺も経験と時を経て成長していけるから。

 次の機会なんてこなくて良いけど、来れば今回よりもずっとスムーズに進められるだろう。


「それでまずは、深海の闇雲の管理に関しては――一度俺が全強化した後に、ノーライフ・キングに任せるよ」


「え、それは……よろしいのでしょうか?」


「まぁ。どの道、俺はあんまり管理とかしたくないし……それに今回の戦の功績は全部ノーライフ・キングたちのものなのに、他の王に分配されても面白くないだろう?」


「しかし、それでは他の者から反感を買う可能性も……」


「大丈夫。それに関しては考えがあるから」


「そ、そうでしたか」


「それで、その元迷宮主の処遇だけど……これも、ノーライフ・キングに任せるよ」


 この人魚。確かに美人ではあるけど、俺はそもそもこう言った色気ムンムン系はあんまり好みじゃないのだ。

 そうじゃなくても、こいつはタキエルを人質に取ったので嫌いだし――と言うか今回の件でムンムン系と人魚が嫌いになったまである。


 故にこいつとは関わりたくないし、まぁノーライフ・キングに任せておけば煮るなり焼くなり好きにしてくれるだろう。


「では。ありがたく受け取っておきます」


「OK。後はもう、特に決めることはないよね?」


「はい。ございません」


「だったら、お疲れさん!」


 俺は迷宮者権限で、タキエルの待つ、最終階層にある俺の家まで瞬間移動した。

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