脱衣卓球
「言っといてください。体育の選択は全部卓球をとって――話す友だちもなく、一人黙々と磨き上げた技術が火を噴きますよ、サッ!!」
不意打ち的に放たれたタキエルの、ネットスレスレのサーブが飛んでくる。
そのスピードもさることながら、前回転が掛かっているのでピンポンが低く飛んでくる。対応できずに、一点取られてしまった。
次のサーブもタキエル。
今度は横回転。如何にインドアで引き籠もりでも、やはりモンスター。
バカに出来ないパワーで放たれた横回転サーブは着地と同時に大きく軌道を変えて、俺側の端、それもかなりネットに近い場に玉が落ちる。
俺は無理矢理卓球台の横に滑り込み、玉を返した。
タキエルはこれはチャンスだとばかりにスマッシュを打ってくるが、それは構わない。俺は一気に下がり込んで更にそれをカット。バックスピンをかけた玉をタキエルのコートに入れる。
スマッシュ。カット。スマッシュ!
俺はタキエルのスマッシュを延々とカットして返していく。
そして、粘りに粘った末に、タキエルから一本を返し取った。
「ふっ。話す友だちもなく黙々と卓球の技術を磨いた体育を経験したのは、なにもお前だけじゃないんだよ」
「くっ……やはり、マスターさんもでしたか」
これで 1-1
今度は俺のサーブだ。
◇
それは俺がまだ、学生だった頃の話だ。
体育の選択はバスケかサッカーか卓球。バスケはヤンキーしかいなくて、サッカーは陽キャの集い。俺みたいな陰キャは決まって卓球を選ぶのだが、卓球は授業をサボりたい系の女子にも結構人気のスポーツだった。
基本的に教師は生徒を放置するので、大半の生徒は卓球もせずに友だちとわいわい雑談に花を咲かせているが、学生時代、雑談に花を咲かせられるほどにコミュ力があったわけではない俺は、同じくコミュ障の男と延々と卓球の練習をしていた。
その男と俺は殆ど会話を交わした記憶は無い。
それに、俺もその男もとりわけ卓球に熱を注いでいるわけでもなく、ただやることがないから仕方なくといった理由で黙々と卓球をしていた。
しかし、その男と俺は少し似ているところがあった。
それ故にお互いに『速攻』と『カット』を入れ替えつつ、偶に両者カット・両者速攻にしながら練習を重ねていたんだが、俺もそいつもスタイルとしては『カット』が好きだった。
なぜか。
それは、基本的にサボれる卓球の授業だが最後の二~三時間ほどは、教師監視の下トーナメント的なものが行われるのだ。
その時は、いつもわいわいやっている奴らも卓球をしなければならない。
いつもサボっているが故に全然強くない。
そんな相手に持久戦を持ちかけるのだ。へろへろの返しやすい玉を投げつつ、下手なスマッシュを全部カットで打ち返す。
ネチネチと。絶対に勝てないと相手に解らせた上でその試合を出来るだけ長引かせるのだ。
教師が監視しているから、途中で試合を投げ出すことも出来ない。
出来ることと言えば、精々サーブミスを連発してわざと負けにいくことくらいである。
そうやって、いつも黙々と練習していた俺たちは、いつもわいわいがやがや雑談に勤しんでいたやつを嬲るのだ。
懐かしい思い出。
その実力は、割と真面目に授業を受けていた卓球部にも通用したのだから、陰キャの執念もなかなかのものだといえる。
確かにあの時は青春していた。
そしてその青春は大きく、タキエルから11-9でワンゲームを制した。
◇
「ま、まあ、ワンゲームくらいくれてやりますよ」
そう言って強がるタキエルは、あっさりとTシャツを脱ぎ去る。
そもそもタキエルはへそが見えるほどに丈の短いTシャツにホットパンツという、そもそも露出の高い格好をしている。
確か今の季節は冬だったはずだが、まぁ迷宮最下層は常春の気候なのでアレなんだが……薄着故にワンゲームでもうタキエルの上は下着姿になってしまった。
……い、意外と発育は良さそうで、Cくらいはありそうだった。
「サッ!」
一度屈んで、台に隠れたおっぱいがぷるんと揺れつつ、サーブが放たれる。
どうにかそれを返すが、しかしスマッシュの時にもCカップの形の良いおっぱいが弾む。ブラが少し緩いのか、ひもが躍動し、もしかしたら試合中に外れてしまうんじゃないか? と俺に期待させる。
4-11 そんなこんなで色々と気を取られていた俺は、あっさりとワンゲームを返されてしまった。
俺は、隠密の――ではなく普段着にしている普通のスウェットを脱ぐ。今日の俺は肌着を着用していないから、上半身が裸になるがまぁどうって事はない。
一応鍛えていたので、腹筋も田の字に割れてるし――まぁ最近怠けてたのでそれ以外はアレだけど、見られて恥ずかしいものでもないつもりだ。
いや、でもこの状況で脱ぐのはちょっと恥ずかしいかもしれない。
……ある意味もう後がない。
合理的に考えるんだ。目の前の揺れるおっぱいを生で見たくはないのか? タキエルなんかに衣服を全部剥かれて笑われて悔しくないのか?
これ以上負けを重ねるわけにはいかない。
これから全勝して、わからせてやる。
そう決心して、渾身のサーブを打った「サッ!!」
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