テーブルテニス

「298…299…300」


 罰ゲームの腹筋300回。レベル99の上に、元々勇者パーティに所属していたりその前に衛兵を経験しているから、性格こそインドアではあるものの、腹筋300回くらいどうってことない。

 だが罰ゲームとしてさせられているという事実に、多少なりとも屈辱感を覚える。


 俺の脚を押さえて、腹筋が300回終わるまでの十五分ほど。起き上がる度に見える、愉悦の表情に浸るタキエル。

 十五分も続けば、苛立ちだけでなく「あぁ、こいつ顔立ちだけはやたらとかわいいんだよなぁ」とか思えてくるのだ。

 そうでなくとも脚はタキエルの柔らかい身体に包まれているし、腹筋していると筋トレ特有の快感が身体をめぐるしで、新たなる扉が開けてしまいそうだった。


 結論から言えば、俺は負けたのだ。急所とか火傷とかクソ外しとか俺の運が悪かったのもあるけど、それ以上にタキエルは昨日よりもはるかに強くなっていた。

 ……次はパーティにギミックを仕込んで初見殺しをしてやろうと内心誓う。


「ふぅ。なんかスゴく久しぶりに運動した気がする」


 昨日だって勇者パーティの襲撃があったとは言え、俺、迷宮主権限で瞬間移動をしただけだし……


「そりゃあ、ここ最近ずっと私と部屋にこもってゲームばっかりしてますからね」


 タキエルの言う通り、ゲームばっかりしてる。

 流石に一ヶ月以上運動をしていないと、そろそろ身体も凝り固まっていくし、いくらステータス上の数値や補正値が上がったとしても、素の筋力が鈍ってしまえば意味が無い。

 それに、ゲームでは7:3で俺が負け越しているので、そろそろ勝ちたい。


 さっき補正値を爆上げしたお陰で、タキエルと補正値面では多分互角以上だし、それに、俺同様引き籠もっていた――いや、多分ゴーレムばっかり作っていて、俺以上に引き籠もっていたであろうタキエル相手ならスポーツでは流石にこちらが強く出られるはず……!


「と言うわけで、腹筋して身体も温まったし、偶にはスポーツでもしようか」


「ええ~。スポーツっすか……」


 珍しく乗り気じゃないタキエルを半ば無視して、家を出る。そして少し先にある、以前モンスターの王たちが泊まっていて、今はタキエルが寝泊まりをしている部屋もあるあの家に行く。

 そこの、良い感じの空き部屋に入り込んだ。


「OKコア。ラケットとピンポンとコートを頼む」


「300DP消費しますがよろしいでしょうか?


「構わない」


 部屋に卓球台と道具が出現した。まぁ本当はもっと他のも用意した方が良いのかもしれないけど、ちょっと遊ぶ分にはこれでいいだろう。


「スポーツってなんですか。卓球じゃないすか」


「……なにかご不満でも?」


「……いや、スポーツって言ったからやっぱり野球とかサッカーとかするもんだとおもってましたよ」

「ははは。タキエルはバカだなぁ。サッカーも野球も人数が揃わないだろう」


 人数あわせに、スポーツが出来るくらいに賢いモンスターを集めるのは論外だ。

 球技の皮を被った戦争が行われる地獄絵図が容易に想像できた。


「……まぁそれもそうすね。で、卓球だったら、なにか賭けます?」


「良いぞ。なにを賭けるか?」


「1ゲームごとに服一枚とかどうですか?」


「ふ、服?」


 服……つまり、脱衣卓球。別に俺側は服を脱ぐくらい、パンツさえ剥ぎ取られないならどうってことないが、逆に俺が勝ったらタキエルが脱いでいくってことだよな?


 それって……よっぽど勝つ自信があるのか、もしくは誘っているのか……。


 ニヤリ。タキエルが意地の悪い笑みを浮かべている。

 そう言えば、昨日の罰ゲームも俺がヘタレる読みで提案したと明かしていたが、これもまたきっとそう言うこと。

「どうせヘタレだから出来ませんよね?」と挑発されているのだ。


 ゲームは既に始まっている。そして、ここで降りれば俺はタキエルに「ヘタレ野郎」のレッテルを貼られ、それを甘んじて受け入れなければならなくなる。

 それは嫌だ。

 それに、俺は昨日までの俺とは違う。


 俺は昨日、勇者が襲撃してきたことによって生まれて始めて女の人の全裸を拝んだ。


 相手は俺を奈落に突き落とした勇者だが美少女。その一糸纏わぬ姿をこの目に焼き付けて、ついでにスクショも残してある。

 昨日の勇者との対峙で、俺は女性の生の裸にも耐性をつけた。

 そうでなくとも、昨日はあんまり動揺せずに済んだという実績がある。


 それに、タキエルは昨日の脇を舐める瞬間もすごく恥ずかしそうにしていたから、もしかしたら下着になった辺りで日和って降参してくれるかもしれないし、そうでなくともただただ容姿だけは抜群に良いタキエルの裸を拝むことが出来るのだ。


 どう転んでも俺に負けはない。唯一の敗北条件とすれば単純に卓球でボロ負けしてこちらが剥かれること。

 タキエルが勝てると踏んでいるっぽい様子なので、その自信の出所は少し気になるが……まぁ、万に一つもあのタキエルには負けることはないだろう。

 


「……解った。負ければ一枚ごとに服を掛ける……乗ってやろうじゃないか」


「ふっ。受けましたね。全裸になって泣きわめいても許してあげませんよ?」


「俺は、泣いて頭を下げるなら許してやらん事もないけどな」


「言っといてください。体育の選択は全部卓球をとって――話す友だちもなく、一人黙々と磨き上げた技術が火を噴きますよ、サッ!!」


 ………タキエルの自信の出所はとても哀しかった。

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