一方その頃勇者パーティでは
勇者パーティから役に立たないメンバーを追放して、初めてそいつが如何にパーティに貢献してきたかを身をもって理解させられるかのようにパーティ崩壊。
ネット小説では割とありがちな話だけど、現実で足手まといを切り捨てれば当然、作業の効率が上がる。
「有能な敵よりも無能な味方が恐ろしい」とはよく言ったものだけど、世界の真理ね。
荷物持ちの男がいなくなってから早一ヶ月半、私たちの旅の行程はあの男がいた頃に比べて格段にスムーズになっていた。
今の勇者パーティは私含めて三人。
私と、聖女と、賢者。
賢者が広範囲魔法でザコを殲滅しつつ、残党を勇者である私が遊撃。もしメンバーの誰かが怪我をしたら聖女が癒やす。
もしアンデッドが出現した場合は逆に聖女が広範囲の聖域魔法を使ってザコを殲滅しつつ私が遊撃。
もし誰かが怪我をしたら賢者が癒やす。
完全無欠のパーティ構成。しかも全員美少女オンリー。
それでも、やはり旅路に『鑑定』と『アイテムボックス』は必要だけど、それぞれのスキルは私の神器『八尺瓊の勾玉』『八咫鏡』にそれぞれコピーすることで、私も使えることになった。
故にあの男が奈落の底に落ちて死んでも、このパーティには何の支障も無い――と言うか、足手まといがなくなってむしろ良くなったと言い切れる。
背後に流れ弾で死ぬ鑑定機能付きアイテムボックスに気を遣わず戦える。
一般人に毛が生えた男に合わせる必要がなくなり、この国でもトップクラスの身体能力をもつ私たちのペースで行軍が出来る。
何より、私の完全無欠な美少女ハーレムから汚い男が消え失せる。
これ以上ないほどに私の士気は上がり、ついでにパーティ総力的な効率も上がったので、平均して四十程度だった私たちのレベルは一気に七十近くまで上がってしまった。
それには、魔王軍が魔物の大軍を率いて『首都陥落作戦』を取ってきたので、それを返り討ちにしたという成果も大きいのだろうけど。
とにもかくにも私たちは更に素晴らしくなった。
あの、後方で偶にこちらにいやらしい視線を飛ばしてくる汚らわしい男を殺してから全てが順調に進んでいる。
想像していたよりもはるかに。
むしろなんでもっと早くあのスキルをコピーして、あの男を殺さなかったのか不思議なくらい。
いや、まぁそれは神器の回収とかそう言うので、あれ以上早く殺すのは難しかったのだけど。
そんな折りに私率いる勇者パーティにこんな話が耳に入る。
あの男を殺した場所であり、世界最難関の迷宮の一つである――『奈落の木阿弥』の様子がおかしい、と。
情報が入ってから、私はすぐに『奈落の木阿弥』に向かった。
◇
そこには、気色悪いほどに『魔界樹の森』が広がってきた。
迷宮だろうが、魔族領だろうが。日夜モンスターとの戦いを繰り広げてきた、勇者パーティ。
基本的に戦闘は楽勝なのだけど、それでも魔界樹の森での戦闘は苦戦させられる。
まず、魔界樹の森は基本的に瘴気が蔓延している。
瘴気はなぜかガスマスクなどが通用しないから、基本的には自分の魔法で一々浄化するか専用の装備を使って一々浄化するか。
どちらにしろ貴重な装備枠、或いは魔法のリソースを割かなければ鳴らないのでそれだけで厄介なのだ。
つぎに、魔界樹の森のモンスターは基本的に他のフィールドのモンスターにくらべて三段階ほど強い。
純粋にモンスターのパワーが活性化させられているだけでなく、モンスターの武器にまで瘴気が伝染しており、そのせいで接触ダメージに『瘴気の毒』が常に付与されるから、いつも以上に気を使って躱すか、いつも以上に回復魔法の使用を強制される。
最後に、これは森林フィールド全体に言えることなのだが、地形的にモンスター側に奇襲をかけられて先制されることが多いので、こちらは更に警戒を必要とされる。
とにもかくにもモンスターを相手取る上では最も厄介なフィールドの一つ『魔界樹の森』――それが初っぱなから展開されている。
序盤だけの張りぼてだと願いたいけど、それはあまりにも楽観的。
最悪五階層くらいまで魔界樹の森が広がっていると考えておいた方が良いだろう。
「勇者様……」
「勇者さん……」
「安心してちょうだい。私がいるから」
「「んっ」」
「「んっ」」
私の袖口を掴んで心配そうな表情をする聖女と賢者、それぞれと私は熱いキスを交わした。
柔らかな甘い味と、照れの残る甘い味。
大きな戦いの前には必ずこれをして、私たちはそれぞれの魔力の親和性を高めると共に、勇気づけ合う。
「私たちなら――」
「「楽勝!!!」」
声を出して、私は魔界樹の森が生い茂る『奈落の木阿弥』に足を踏み入れる。
愛しい恋人でありながら、最高に頼れる仲間である賢者と聖女と共に――。
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