強化されてた奈落の木阿弥
「グギャギャッ!」
緑色の皮膚と深い緑の斑点。身長は120cmほどと人間の子供程度でありながら、横幅は人の子よりもやや大きく、全身にはマンホールの下の人魚のようなコブがある、非常に醜い表情をしたゴブリン。
生理的に受け付けないモンスター三匹と遭遇した。
その内一匹は『ブラックウルフ』と呼ばれる魔獣型のモンスターの上に乗っている。それに、三匹の武器はどれもプラチナ系統だった。
「な、なんでゴブリンがブラックウルフに?」
「小癪な。ゴブリンのくせにプラチナシリーズなんて」
「でも、私たちの敵ではない」
「「確かに!」」
賢者が雷の魔法を放ち、ゴブリンたちをまとめてスタンさせる――普通のゴブリンならプラチナ装備込みでもオーバーキルなんだけど、優秀な個体なのか?
鑑定で見た限りではレベルは60前後と、大して高くなかったけど。
まぁ以前来た時に比べれば三倍くらいはあるけど!
思いつつ、私は神器・天叢雲剣を引き抜きゴブリンとブラックウルフを瞬殺した。
◇
私たちは、以前ここに来た時よりも格段に強く、そして厄介になったゴブリンやそれに連れ従う魔獣やゴーレム・奇襲を仕掛けてくるスライムや蟲系統のモンスターを着実に始末していった。
恐らくここの迷宮主は冒険者を経験している。
そうとしか思えないほどに、的確に私たちが嫌がる仕組みが成り立っていた――そしてふと、いつか奈落の底に落としたあの男の顔が過ぎる。
――いや、まさか。
未だ人類が到達していない、何千mとも何万mとも言われる奈落に落とされて生きていけるはずもないし、万に一つ生き残ったとしてもそこには恐らく、奈落の底に相応しいだけの魑魅魍魎が跋扈しているはずなのだ。
きっと、モンスターに食われて死んでいるはず――。
しかし、じゃあなぜこんな時期に突然迷宮が変化したのか――。
「勇者様っ!」
「あれ……」
「はっ、ええ。解ってる」
私は賢者と聖女の声によって深い思考の海から現実に引き上げられた。
目の前には砦と、簡素な建物――そして、今まで出会ってきたゴブリンよりも更に上位のゴブリンが、更に上位の魔獣を従えている、敢えて表現するならそこには『モンスターの町』が広がっていた。
「聖女、賢者――」
「ええ。これを殲滅する用意は」
「既に整っています」
「――これは無視して、先に進みましょう」
「「え?」」
二人の素っ頓狂な声が漏れる。
「今日の目標はとにもかくにも、目の前の敵の殲滅よりもこの迷宮の情報収集に努めるべきよ。そうすれば首都にいるSランク以上の冒険者にも協力を仰ぎやすいし、なにより――迷宮の心臓、ダンジョンコアさえ破壊すればこれらのモンスターは露と滅されるわ」
「……確かに。今後、これ以上の敵が現れる可能性まで考えるなら体力も魔力も温存しておいた方がよさそうですね」
「そうですね。すみません、勇者様。私たちが至らず……」
「いいえ。二人が進言してくれたからこそ、私も冷静な判断が出来たわ。ありがとう。やっぱり二人は頼れる最高の仲間よ」
「勇者さん……」
「勇者様……」
チュッ。チュッ。
潤んだ瞳で見てくれる愛する二人の仲間と軽い口づけを交わした。
◇
4~5匹程度ゴブリンと、それに従う三匹ほどの魔獣。
例え『魔界樹の森』のフィールド化で、上位個体に進化している上に、全てのモンスターが強力な個体で、プラチナ装備を着込んでいようとも、これくらいの規模なら難なく倒せる。
しかし、相手は勝てないなら勝てないなりに仲間を呼ぶ雄叫びを使ったり、なるべく持久に持ち込もうとしたり、そうでなくともモンスター同士で連携を取られたりするので、いつも以上に苦戦を強いられているのは事実。
出会ったモンスターの数の割には、消耗がかなり大きかった。
これでまだ、ようやく一階層の中盤を隠れ隠れ進んできた結果だというのだから、この迷宮の恐ろしさは計り知れない。
それでもなんとかここまでたどり着いた。
あくまでモンスターの数の割に、消耗が大きいだけであってまだ勇者パーティとしては万全とはいかなくても九割以上の余力を残している。
ただ、想定以上の苦戦を強いられているだけ。
なので慎重に、本当は最低でも十階層まで攻略するつもりだったのを三階層までで引き上げようと仲間たちと決めた。
何よりも命が大事。そう確認しながら進んでいくと、ようやく二階層。
うざったいことにここまでずっと、漏れなく魔界樹の森で、そして二階層もそうだった。
紫色の葉っぱから出てくる、薄い紫色の霧状の瘴気。
木々のせいで悪い視界は、空気の抜け道が少ない迷宮内で隠った瘴気によって更に悪くなる。
だから今まで気付けなかった。
その大きな変化に、今まで。二階層も序盤が終わるだろうと言うこの位置で初めて見えた、この階層の中央に位置する天守閣のようなお城。
そして見渡すここらは、魔界樹に囲まれた森でありながらちょこちょこと家のようなものがいくつも立つ――街。
いや、これは――この二階層そのものがちょっとした都市になっている。
ここは敵地のど真ん中。今まで均等にちょっかいをかけるように小出しに襲いかかってきたゴブリンの群れは、恐らく私たちを怪しませないための陽動。
恐らく更に後ろに控えているゴブリンが、雄叫びではなくもっと気付きにくい形で仲間を呼び出したのだろう。
――ゴブリンのくせに、人間の戦争のような行動を取る。
そんなゴブリンは知らない。だけど、もしそれが本当に実現可能なら死ぬほど厄介なんでしょう。
そう、今のように気付かないうちにおびただしい数のゴブリンに囲まれるみたいな感じで。
「勇者様……」
「勇者さん……」
私たちは警戒心を強め、自分たちの神器を握りしめる。
「……もし、あなたたちに知性があるというのなら、話し合いには応じてくれるのかしら?」
「ギギッ、もちろん」
このゴブリンの集団の長らしき『アークゴブリン・闇』――Lvが90を超える、今の私たちでは到底敵いそうにない化け物。
真っ黒に染まったゴブリンは愉快げに口を歪めた。
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