ハーフエンジェルのいる日常

 水を得た魚、素材を得たタキエル。


 彼女をこの迷宮に呼び出し、ついでにフリーパスを渡してしまってから一週間の時が流れた。

 やはりタキエルはゴーレムを作るのが好きなのか、それとも工業用、インフラ設備用など風変わりなゴーレムそのものに興味があるのかは知らないが、この迷宮内に、大量のゴーレムが配備され、それぞれの国の発展も更に急速になった。


 強制産業革命である。


 流石にタキエルは天才ゴーレムエンジニアを自称するだけあって手際が良く、必要なゴーレムはおおよそ三日で全部作り上げてしまった。

 今は、ほどほどのペースで俺が一年ほど間近で見てきた勇者を倒すことを想定したゴーレムの試作品をいくつか作って貰ったり――


「よっし! 私の勝ち! ふふん。さしものマスターさんでもこのハーフエンジェルで天才ゴーレムエンジニストのタキエルちゃんにはかなわないっすね!」


「ぐぬぬぬ……」


 俺とゲームをしたり……そんな感じだ。


 って言うかこいつ、いつまでここに居座るつもりなんだよ。なんだかんだここ一週間この迷宮に泊まりっぱなしだし、いい加減帰れよ。

 なんのためにフリーパスくれてやったと思ってるんだ……。


 俺、ただいま十連敗中。


 負ける度にされるどや顔と勝ち向上が腹立たしいので、そろそろ帰ってくれませんかね!?



               ◇



「なぁ、このゲーム貸してやるから今日のところは大人しく魔界に帰らないか?」


「なに言ってるんすか? 私は、ハーフエンジェルなので当然天界に……」


「あぁ、そう言うの良いから。って言うか、お前を呼び出した時確かに魔界住みって書いてあったぞ」


「ぐぬぬ……それで、そのゲームは何ですか?」


 タキエルが初めてゲーム機に触れたのは、彼女がゴーレムを作っている間俺が暇つぶしに遊んでいるところを見られた時だったはずだ。

 実際初めて、これらの機械を見た彼女はこれらが何であるかを理解していない様子だった。


 しかしそこは優秀なゴーレムマスター。


 説明したら、すぐに理解してどはまり。数日足らずで、割と俺が勝てなくなってきた。


 それは兎も角。タキエルに差し出すゲームはつい最近発売されたばかりの、某モンスターを育成して戦わせるゲームだ。

 当然、友だちとも対戦できる。まぁリアルじゃなくて画面の向こうの……ではあるが。


「ふむふむ」


 それを説明してやると興味深そうな表情を見せてから、


「つまり、マスターさんはこのゲームで私に勝負を挑んできたというわけですね! 良いでしょう。受けて立ちます」


 挑発的な表情に打って変わった。

 まぁ対戦できるって聞けばこいつは、恐らく乗ってくるとは思った。なにせ、タキエルはここ最近ゲームで俺に勝ちまくってから、スゴく調子づいている。

 というか調子に乗っている。


 それがもう、引き籠もってゲームをし続けているような俺からすればめちゃめちゃ癪なので、そろそろ、ちょっと痛い目に遭わせてやろうと思っていたのだ。


「そうか。だったら、なにか賭けるか? このゲーム俺は結構自信があるけど」


「そうですか。私もこのゲーム、やったことはないけど自信はあります。……そうですね。じゃあ、負けた方が勝った方に脇を舐められるとかどうですか?」


「ん? なんだその変な罰ゲームは……」


「魔k……じゃなくて天界では割とメジャーな罰ゲームですよ?」


「え、そうなの?」


 舐めるのも舐められるのも嫌じゃね? 普通……。

 とは思ったものの、まぁ俺からなにか希望の罰ゲームがあるわけでもないので承認した。


 三日ほどの時が流れる。



                ◇



「マスターさん! 育成終わりました!」


「え、早くね?」


 三日。三日である。いややって出来ないってこともないと思うけど。いや出来るんだろうけど……。


「タキエル……お前、ちゃんと寝てる?」


「そりゃあもう、週に一回は寝てます!」


 あ、そう……。いやまぁ俺もレベル99になってからなのか迷宮主だからなのか、そんなに寝なくても食べなくても割と大丈夫な身体にはなったけど……。


「じゃあ、まあ対戦するか!」


「そうですね! けちょんけちょんのぎちょんぎちょんにしてやりますよ!」



                 ◇



 結論から言えば、俺は一匹も手持ちのモンスターを落とすことなく完勝した。


 まぁ、当然の結果と言える。相手は完全に初心者だし。こっちは初見殺しをふんだんに詰め込んだ害悪戦術を使ったんだ。負けるはずがない。

 勝ってどや顔をしたのは良いものの、初心者相手にこの勝ち方はどちらかと言えば罪悪感の方が大きく感じられた。


 そんな中、非常に悔しそうな表情で床に転がり両手を挙げているタキエル。


 俺は、これからこの娘の脇を舐める……のか?


 羞恥と屈辱に顔を紅く染め「早くしてください」と堪えるような声で俺にささやきかけるタキエル。

 初心者を嬲って勝って、こんなことをするなんて。

 それは人としてあるまじき行為ではないのだろうか?


 途端に俺の頭がひんやりと引き締まった。


 一体俺は何をしているんだ。


 いくらタキエルが生意気でウザかろうとも、こんな勝ち方をして脇を舐めようだなんて、そんなのまるで俺が変態のようではないか。

 しかし、ここで「やっぱ出来ません」と宣言しようものなら、俺は一生タキエルに舐められてしまう。


 それはここでその罪科を背負うことになるよりも度し難い。


 俺は葛藤し迷った。


 そして、この迷宮にある警報が音を鳴らした。



 ビリリリリリリリリッ

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