迷宮連邦国化計画

「OKコア。この迷宮にいて、俺とまともなコミュニケーションが取れる程度に賢いモンスターをこの場に呼び出せないか?」


《コミュニケーションが取れるとは、どの範囲まででしょう?》


「具体的には、人語を話せること……くらいで良いかなぁ」


《了解しました。全部で17体観測出来ました。全て呼び出すと1700DP消費しますがよろしいでしょうか?》


「構わない」


 俺が許可を出したその瞬間、木陰に隠れる森のエリアに赤紫色の陣が浮かぶ。……アイテムを集める時とは全然違う、この圧倒的な雰囲気は俺よりもはるかに強いであろうモンスターたちが呼び出されるからその圧がこの位置からでも感じ取れるのか。


 心臓がバクバクうるさく鳴る。二度味わわされたモンスターの恐怖を思い出す。


 襟口から白蛇が心配そうに顔を覗いた。

 それまではどうか解らないけど、スキルオーブでドレインタッチを得てこの迷宮に存在する『ロード・オブ・バフォメット』以外の全ての魔物より強そうなこいつがいれば安心だ。

 あとは、俺がなるべくびくびくしていなければ――或いは迷宮主であるという補正も被せて、そう舐められることもない。


「蛇公……ちょっとだけお前に座って良いか?」


 蛇公にそう小声で伝えると、蛇公は瞬く間に大きくなり少し変わった形でとぐろを捲いて椅子に鳴ってくれた。座ってみる。

 ……何とも最難関の迷宮主っぽいと言うか、魔王っぽいと言うか。

 俺の中二心をくすぐられる。


「フハハハ! 出でよ、この迷宮に普く全ての賢き魔物たちよ! 貴様らには我が崇高にして偉大な計画の礎になって貰おう!!」


 その時の十七の賢きモンスターたちはこう語る。


 ―――その男はあまりにも影が薄く、むしろ蛇が高笑いをしているのかと思った、と。



                    ◇



 そう言えば俺は今『隠密のスウェット』を着ていることを忘れていた。


 そりゃあ、この迷宮の最終階層まで(途中からは白蛇のドレインタッチで殺したやつも結構いるが)このスウェットで多くのモンスターをやり過ごしてきたのだ。

 流石に日の光の下、大声を出せば気付かないでもないがうっかりしていると認識から外れてしまうと、モンスターたちに言われてしまった。


 まぁこれから俺の崇高にして偉大な計画の全貌を説明しなければならないので、影が薄すぎるとなにかと不便だろう。

 俺は、アイテムボックスの中から適当に着替えを物色して……『バフォメットの覇服』――色々と思うところがあるモンスターの装備が見当たった。


 これと……原則モンスターは迷宮主に襲いかかって来れないのだが、一応結界の王笏も取り出しておいた。

 さて、では俺の計画を紹介しよう。



                    ◇



 俺がさっき思いついて、今適当に考えている計画。


 その名は『迷宮連邦国化計画』


 ――今、集めた『ノーライフ・キング』『ベリアル』『アークゴブリン・闇』『ワイズ・トロール』『バフォメット・オーガ・赤』『鬼神』『ロード・オブ・オーク』……高度な魔法を扱うアンデッドや上位の悪魔その他・・・・・・。

 今、名前を挙げた7人が純粋に強いので、これらをトップとし10人の悪魔やアンデッドは重要な補佐として君臨させる。


 俺は迷宮内に七つほどの国を作って貰おうと思っている。


 国・自治体――聞くところによると、魔界とかではモンスターでも実現しているらしいが、少なくとも迷宮内でそれが成立しているところを俺は聞いたことがない。

 だが、この迷宮なら七千八百兆ものDPがあるので、ゴリ押せば出来ないと言うこともないだろう。


 そして、国を迷宮内で成立させるといくつかのメリットが生まれる。


 まず、単純に一つ目は俺が楽できそうなこと。

 本来なら全部俺が管理しなければならないところを全てモンスターたちに丸投げするのだ。一人で何十階層も管理するより、誰かに任せてそれぞれの思うままに作って貰った方が良さそうだと考えたからだ。


 二つ目は、迷宮の防衛力の強化が期待できるから。


 これは、後々の計画に繋がっていくんだが、もしモンスターが高度な知能を持つようになったら強そうだと思わないだろうか。

 例えば確かな訓練によって鍛え上げられた、統率の取れたゴブリン。

 時に人質を取ったり、戦略的撤退を選択できる理知的なオーガ。

 作戦行動によって、その怪力を合理的に押し付けてくるトロール。


 それはさながら全ての敵の思考に『プレイヤー』が紛れ込んでいるゲームのような難易度に跳ね上がるだろう。

 それをただでさえスペックの高いこの迷宮のモンスターでやったら少し面白そうだ。


 そして、迷宮の防衛力が上がればまぁ何か良いことあるだろう。


 そうして俺は、ぶっちゃけ『迷宮をカスタムする』というゲームみたいな状況にテンションを上げながら、上位のモンスターたちに文字を教えていく。

 当然、俺が知っている文字は日本語のみなので言葉も日本語で統一する。


 そして、呼び出された選りすぐりのモンスターたちは丸一日で『ひらがな』『カタカナ』『ローマ字』と小学校で習う程度の『漢字』を覚えてしまった。

 聞くところによると、彼らの殆どは魔界や異世界では村や街、モンスターによっては国など何かしらを統率していた経験があったらしい。


 なるほど……。


 俺は少し迷宮のモンスターとはどういう存在だったのかという疑問を持ったが、とにかく経験があるなら好都合。

 俺はこれからの未来に思いを馳せながら行動を選択していく。

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