悪魔のひらめき
風呂の中に寝っ転がって、両腕を伸ばしても脚が縁にひっつかないほどに大きいお風呂。奇跡の石の成分が染み出す、四二度の楽園に今日一日の疲れを溶かされながら、やはり風呂はデカいのを設置しといて良かったと確認する。
今日は思いの外疲れてしまった。
ウザいけど見た目だけはかわいかったタキエル。
それ相応に俺も男なので、彼女と絡めることに喜びを見出せないわけじゃなかったけどしかし、それを加味した上でも疲れてしまった。
やはり女の子は、少し後ろからキャッキャやっているのを眺めているくらいが一番良い。
「ふぅ~~~」
自分が思っていたよりもずっとおっさん臭い声が漏れた。
しかし、ああも無下にタキエルを追い返すこともなかったのかなぁと少し後悔する。う~ん。なんかあの娘がさっきのあれこれで傷付いていたらと思うと気が気でない。
でもじゃあ、だからといってずっとここに居座られるのもなぁ……。
うんうんと悩んでいるうちに、頭がぽーっ、とのぼせてくる。
「う~ん。酒飲んで飯食って寝るか!」
俺が風呂を上がると、白蛇もスルスルッと上がってくる。そうだな。今日も今日とて男一人と一匹の晩酌を呑み交わしますかね!
◇
奇跡の水はやっぱりスゴくて、アルコールの解毒を促進してくれるのか二日酔いも全くないしそれどころか頭がすっきり晴れやかだった。
ダンジョンの設定なので当然ではあるんだが、今日もスゴく良い天気だ。
毎度毎度食事レポばっかりしていても、俺がイタい人みたいになりそうなので今日の朝食はほっかほっかの白飯に生卵を溶いて醤油をかけて食べたとだけ伝えておく。
美味かった。
と、食事の至福に感謝しつつ俺は――まぁ昨日の今日でどうこうなっていると言うこともないだろうが畑の様子を見に行くことにした。
奇跡の水の影響か、元々こんなのなのかは知らないけど森の木が昨日より背を伸ばしている気がした。
「って、ヤベえな。奇跡の水」
流石に一晩で収穫まで! とはいかないまでも、芽が出てそこそこ大きくなっている。夜の間に、これ。昼間どんなペースで成長するかは解らないけど、下手すれば三日程度で収穫出来そうなペースだった。
なにこの三日坊主専用収穫システムみたいな。
いやまぁ、アイテムボックスというほぼ無限の容量を誇る倉庫もあるから別にありすぎて困るってこともないんだろうけど、凄まじいものを感じた。
満足。満足してしまった。
畑終わって一段落。酪農とかに手を出すのも面白いんだけど、特に気分がのらない。いまどうしても食ってみたい肉のアイディアもなければどうしても作ってみたいなにかもない。
DPはほぼ無限にある。ダンジョンは今まで人類が総力を挙げても突破できなかったほどの堅牢さもある。
だからこそ、今すぐになにかをする必要性がない。
完全に満ち足りているからこそ生まれる、何をすれば良いのか解らないという虚無。
強いて言えば、俺みたいなザコが色々と抜け穴的な方法を使って突破できたことを考えて、システムの欠陥を消していく方向でこの迷宮を整理する必要があるのかもしれない。
「OKコア。木阿弥の奈落に落ちている全てのドロップアイテムと宝、全部回収してくれる?」
《了解しました。2400DP消費しますがよろしいでしょうか?》
「構わない」
ドサッ。
俺たちが取り逃したドロップアイテムや宝箱が山のように積み込まれる。――まぁ、木阿弥の奈落の攻略自体敵を避けながら最低限のアイテムだけを回収しつつ、白蛇の案内に基づいた最短ルートを通って攻略してきたし、取り残しがあっても仕方がないと思っていたが……よもやここまでとは。
素材、素材、素材。
ゴーレムの材料になりそうな鉱物や金属は兎も角、毛皮とか鱗とか何に使えば良いのかよく解らないものから、変わった装備品、狂った呪いのアイテム、めちゃめちゃ便利そうな消費アイテムまでピンキリだが色々あった。
……しかし、なんでこんな迷宮の攻略に役立ちそうなアイテムばっかり置いてるんだろうか。
これじゃあ攻略してくださいと言っているようなもんじゃないか。
むしろ俺が迷宮主だったら宝箱に入っていたアイテムに爆弾を仕掛けて奇襲できるトラップを仕込むまであるのに。
俺はぼやきながらアイテムをアイテムボックスに入れていく。
数が数なので尋常じゃなく面倒くさいが、ぼちぼちといれていく。
そして、それが終わったら『至玉の剣』のようにバランスブレイカーな装備が落ちてくるクソみたいなトラップが埋蔵されていないか確認していく。
とにもかくにも、侵入者を強化させるトラップなんて論外なのだ。
何でも切れる剣なんて用意したら、俺みたいに掘り進めようとする輩が他に現れないとも限らないし。
………。
………。
しかし、迷宮の強化って面倒くさい。何が面倒くさいって、迷宮自体の全容を俺が知らないからどんなモンスターがいてそんなトラップがあってどんなアイテムが落ちているのか、モンスターはどんなアイテムを落とすのかを確認していかなければいけない。
その作業をこなさないと、強化もクソもないのだ。
そして、この作業をした後も定期的に迷宮を強化したり構造を変えたりしないと行けないのだろう。
面倒くさい。
もうちょっとシステマチックに、俺が放任していても勝手にダンジョンが強くなっていくとか、そういう感じのが理想。
なにか良い方法はないだろうか……。
………。
………。
普通に、階層ごとの責任者を用意して仕事の負担を分散したらよくね? こう、人型で知能の高そうなモンスターを中心に、この最終フロアに集めて、勉強させて。
その上で各階層ごとにモンスターのちょっとした村を作っていって、自動的な発展を促していく。
原始的な発展へのサクセスは義務教育の段階で習っているし、上位のモンスターなら俺の拙い教育技術でも何とか理解してくれるに違いない。
思い立ったら吉日。
賢そうなモンスターを適当に選別して、軒並みこの最終階層に呼び出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます