農作業ゴーレム

 タキエル曰く、ゴーレムを扱う者にとっては垂涎ものの金属・鉱石の数々。


 高い魔力親和性に、耐久性。迷宮の濃い魔力がふんだんに染みついていて、そうでなくても高純度の素材。レベルの高いモンスターの落とす魔石に含まれる大量の魔力をコアにして天才ゴーレムエンジニストが手を加えれば永久機関とは行かないまでも、魔力の濃いダンジョン内ならメンテなしでも半永久的に動くとお墨付きを貰った。


 作られていくゴーレムが次々に動き出し、森を切り開いて草原を広く耕していく。また別のゴーレムは泉から水路を畑まで敷く作業をしている。

 どんどんゴーレムが増えていって作業効率が上がっていく。

 ドンドン畑が出来上がっていく。


 上質なゴーレムが高速で畑を、それに付随する設備を作っていく様はまるで百倍速で街作りを見ているかのようなある種の爽快さを演出してる。それは正に圧巻の一言だった。

 だが、それ以上にスゴいのはタキエルだ。

 さっきのウザい振る舞いからは信じられないほど真剣な表情で、黙々とゴーレムを次から次へと生み出していく。


 その集中力には圧倒されるほどの奇妙な迫力があるのに、どこか楽しそうに見える彼女を見ていると微笑ましくも思ってしまう。

 こうやってなにかに真剣になれる女の子は、僕の好きなタイプだった。

 ………なんか、そう思った瞬間俺の心にとんでもない屈辱感が襲いかかった。


 あのタキエルに、不覚にも魅了されてしまった。その事実がとてつもなく悔しい。


「……って言うか、いつまで作ってるんだ?」


 眺め続けること数時間。次々に作り出される様々な種類の農業用ゴーレム全五十数体。鑑定してみると、一体で大規模農場を全て管理できるほどの超スペックを備えているみたいだ。

 水路工事用とかもあるので、少し数は減るがしかしそれでも大規模農場何十個分は任せられるゴーレム。


 ゴーレムが畑を耕していくがその面積がみるみるでかくなっていく。信じられないほどデカくなっていく。そしてデカくなった畑の上を、水路から水をくみ上げたゴーレムが飛行機のように空を飛んで水やりをしていく。

 多分同じ方法で種まきも出来るし、収穫モードとか雑草駆除モードとか害虫駆除モードとか……ついでに酪農モードとかあるらしい。


 暇だったので鑑定で洗いざらい調べた。


 が……。


「いや! もう良い! もう要らない!! お前は、このフィールドを全部畑にするつもりか!」


 俺はタキエルにこれ以上ゴーレムを作るのを止めさせた。



             ◇



「あぁぁ」


 タキエルが止めてもまだゴーレムを作り続けるので、強制的にアイテムボックスに収容していくと、哀しそうな声が響いた。

 何というか、スゴく申し訳ないような気分になるけど、俺は俺と白蛇が食べる分程度の野菜が育つ畑で十分なんだ。


 そうでなくても50体はあまりにも多すぎる。

 それこそ、ダンジョンで農業革命でも起こすつもりなのだろうか?

 確かに、ほぼ無限の容量を誇るアイテムボックスにバカみたいに育てた野菜を収納して街に持っていけば、革命が起こるだろうけど。

 農家の人たちが貧乏になっては不憫だし、なにより態々外に出かけたくないので却下する。


「うぅぅぅ。至福の時間が……」


 未だに名残惜しそうにしているタキエルを見ていると、本当にゴーレムが好きなんだなぁと窺えた。うん。もし、ダンジョンにモンスターを増やすことがあるのならゴーレムを積極的に使うと内心決める。

 ゴーレムの質は最高だし、こちらとしても楽しんで仕事をしてくれる人に頼んだ方が気分も良い。


「と言うわけでお疲れ様。じゃ、またの機会があったら……」


「えぇ!? え、永続契約じゃないんですか?」


「え、永続契約のつもりだったの!?」


「「え……」」


「えぇぇぇ! マスターさんは私のことを捨てるんですか? 私にあんな快感を教え込んでおいて……」

「あんな快感って、良い素材でゴーレムを作る快感ってことだよね!? 語弊があるよ?」


 うるうる、うるうる。


 タキエルのぶりっこ健在。うるうると子犬の捨てられたような純粋な目を演出するが、流石にあざとすぎるので何とも思わなかった。と言うか、余計帰って欲しくなった。


「えっと、追加で150万DP上げるんで帰ってくれませんかね?」


「捨てないでください! マスターさん! 私何でもするんで。どんなゴーレムでも作ります! 世界を滅ぼせる超破壊兵器から、身の回りのお世話をするお掃除ゴーレムまで! 本当に何でもっ、なんでも作るんで! 私を捨てないでください~~~」


 うるうる作戦が駄目だと見るや否や、今度は泣き落とし作戦に打って出てきた。脚にしがみついて頬をごすごすしながら叫ぶタキエル。

 最早色気もなにもありやしない。

 曲がりなりにも美少女のこんな惨めな姿は見たくなかった。


「何かあったらその都度呼ぶから。本当に帰ってくれません?」


 かくいう俺も涙目だった。


 なんか絡み的に親しく見えても、彼女は今日会ったばかりの女の人。

 ゴーレムが必要なタイミングで偶に呼んで話すなら、タキエルは明るいしかわいいし良い子なんだけど……この迷宮でずっと一緒に生活するってなると話が変わってくる。


 俺はかなり人見知りする男なのだ。

 これから毎日のように顔を会わせるって思えば、相手が自分のことをどう思っているか気になって胃がキュルキュルし出す。


 俺がこうして奈落の底にいるのも、もしかしたらこの人見知りが原因の一端なのかもしれない。


 そして、タキエルはそんな弱った俺の姿を見て同情したのか「解りました。今日のところは帰ります」と……ふぅ、良かったぁ。

 「でも、これだけは受け取ってください」


 そう言って渡されたのは、一枚のカード。そこにはタキエルの名前が書かれていた。


「それを使えば、私をいつでも呼び出せるんで是非使ってください!」


 タキエルは魔界か天界か知らないけど、自分の家に帰って行った。



 ……台風のような奴だった。

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