召喚☆ゴーレムマスター

 美味い野菜を食べたい。されど、大変な農作業はやりたくない。これ、割と真理だと思う。


 数秒前「節制を努めよう」と戒めたことはもう忘れた。と言うか冷静に考えれば七千八百兆のうちの三兆DPだ。完全に誤差の範囲内である。

 それに、畑を作るのに妙にケチって結果出来映えがショボいとそれ以上につまらないこともないだろう。


 俺はコアが映すモンスター召喚のカタログを眺めながら、考えていた。


 ――う~ん。農作業に従事させるならやっぱり植物の扱いに長けたエルフが良いのかなぁ? ……いやでもエルフって男女比1:9な上に美人揃いって聞くし、俺人見知り激しい方だからなぁ。

 一日だけなら、美人さんと過ごすのも悪くないだろうけど畑を見て貰うために半永続的にこのダンジョンに居座られると思うと、精神的なハードルが高くなる。


 だったらゴーレムみたいな完全なる機械にやらせるのはどうか。


 当然、ダンジョンに農作業を想定しているゴーレムは少ないので農作業『も』出来そうな戦闘用ゴーレムを召喚することになるのだろうが、そんな農作業を想定されていないゴーレムに的確な指示を出せるほど、農業に知識があるわけでもなかった。

 精々、昔田舎のばあちゃんの家で延々と苦行のような農業を手伝わされただけである。


 特に五歳の頃の芋掘りは衝撃的だった。


 幼稚園で体験した芋掘り大会は、あの歳の子供の力でも軽く触れれば簡単に引っこ抜ける楽しい収穫大会だったのに、それを期待していた俺に待ち受けていたのは父が鍬で掘り返した芋をひたすら拾い続ける単純作業だった。

 当然、芋掘り大会のような楽しさは存在していない。


 拾っていると偶に変な虫が手に付いたりそうでなくても純粋に重くて腰が痛くなるので、やはり楽しい思い出はなかった。

 極めつけは、芋掘りの後に食べた焼き芋はスーパーで買ったものだった。

 しっかりと寝かされて甘くなった芋なのでスゴく美味しかったが、腑に落ちない気分だったことを記憶している。


 真に自然学習を訴えたいなら、全国の園児たちに体験させるべきは先生たちが掘り返してまた埋め直した『楽しい芋掘り大会』ではなく、容赦なくトラクターかなにかで掘り返した芋をひたすら拾わせ続ける苦行を味わわせるべきではないのだろうか?


 閑話休題。


 とにかく俺は、地道な農業は御免被りたかった。


 どちらかと言えば合衆国的な完全にシステマチックな農業が希望。DPをケチらなければあのシステムでも『無農薬』『有機栽培』的なことも余裕で実現可能だろうし。

 そして、一時間の物色の末俺は俺の希望に合いそうな人材を見つける。


 その職業はゴーレムマスター。


 ゴーレムエンジニアを極めた高名な魔法使いとかがなれる職業らしいのだが、素材さえ渡せばどんなゴーレムでも作ってくれるらしい。

 頼めば完全に農作業に特化させることも可能だろう。


 悪魔やリッチー、ハイエルフなど強力な魔法を軒並み扱える種族が『ゴーレムマスター』としての性質を兼ね備えていたり、逆にゴーレムを生み出すためだけのゴーレムみたいな機械的なゴーレムマスターと言うよりゴーレム製造器もそれにカテゴライズされていた。


 当然、俺はハイエルフのゴーレムマスターを召喚することに決めた。


 ……決めたのだが、ふと気になる者を見つける。

 種族は『ハーフエンジェル』で、エンジェルという割に迷宮主が召喚できる項目にいる上に禍々しい赤枠で囲まれていた。

 ……なんだろう。スゴく気になる。


「OKコア。仮に、召喚したモンスターが襲いかかってきたらどうなるの?」


《それはあり得ません。法則によって、それは不可能だと定められているからです》


「そ、そうなんだ……」


 フワッとしているようなしていないような。俺は、懐にいる白蛇を見る。


 まぁ、最悪でも奈落の最下層のモンスターより弱ければ余裕で白蛇が瞬殺してくれるだろうし。それにあんまり関わりたくないけどあのバフォメット・ビーストだって今は俺の支配下にあるから……流石にあの『ぼくがかんがえたさいきょうのもんすたー』より強いゴーレムマスターが暴れたんだったら、もう完全に事故だったと諦めるしかない。


 怖いもの見たさ半分、好奇心半分に大きな期待を乗せて『ハーフエンジェル』のゴーレムマスターを召喚することにした。

 ポチッ……。



 青白い光と深紅の光がそれぞれ半円を描く奇妙な魔方陣が浮かぶ。モンスターの召喚も魔法を見るのもこれが初めてではないが、この異様とも言える光景に俺は息を飲み込んだ。

 勇者パーティの荷物持ちとして、非常識には慣れっこだと思っていた俺でも想像の出来ないなにかが起こる、そう思うとわくわくした。


 そして、その存在が現れた。


 ショートカットの黒髪に赤と青のオッドアイ。背中にはコウモリの羽を生やし、あざといまでに整ったかわいらしい顔立ちを良い感じに映えさせる八重歯がチラリと見える。

 しかしそいつは決して『ハーフエンジェル』ではなく、どうみても悪魔だった。


「はいどうも~。マスターさんに呼ばれて参上しました! ハーフエンジェルにして天才ゴーレムエンジニストのタキエルちゃんです ☆よろしくね☆」


 ……。色々ツッコみたいけど、


「いや、どう見ても悪魔…」


「ハーフエンジェルにして超々天才ゴーレムエンジニアのっ、タキエルちゃんです☆」


 ……おーん。何か、スゴく変なのが呼び出されてしまったなぁ。

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