今日から俺は迷宮主!

《新たなる|迷宮主(マスター)が承認されました》


 正規ルートとは少し外れているが、どうにか迷宮の心臓であるコアに触れると機械的なメッセージが部屋に響いてきた。

 相変らず、白蛇の目は呆れに染められている。


 ………。


「い、いや! 蛇公だってあの化け物と戦いたくはないだろ?」


 白蛇は不服そうだが渋々と首肯を示した。この蛇は、なにかこの迷宮に因縁的なものでもあったのだろうか? 人語を話さないので真相は藪のなか。

 ある意味これが本当のやぶ蛇なのかもしれない。


 それにだ。


 ハッキリ言って、あんなクソ強いモンスターを設定しておきながら何でも切れる剣なんて変なアイテムを用意しているこの主が悪い。

 戦いを回避できるなら、誰だって真っ先に回避するだろう、普通。



 なにはともあれ、俺はかの一休僧正のようにとんちと機転を利かせて迷宮に立ち向かいコアに触れてクリアした。

 その功績をこの迷宮も認めているから俺が迷宮主になれているわけだ。


 そうなのだろう。


 偶々迷宮主がいないタイミングで、システムの穴を突くような形で現状があるのだとしても……まぁ結果として変わらないので、アレだ。やっぱりこれ正規ルートだったのだと思い込んだ方が、気分が良い。

 つまり、俺スゴい。実質勇者。


 しかしやっぱりなんと言っても。迷宮主――ダンジョンマスターと言えば、迷宮を好きなようにデザインしたり改装したりする権限があるはずだ。


「OK……えっと、なんて呼べば良いんだ?」


《CORE で 構いません》


「承知。OKコア、迷宮の改装をしていきたいんだけどチュートリアルをお願いできるかな」


《了解しました。ただいまヘルプを用意しています・・・・・・》



                 ◇



 激しい明かりと、暖かい光。白い肌がそれを吸収してみるみるビタミンDを生成していることが感じられる生命の光。

 俺は今数日ぶりに、日の光を浴びていた。


「あぁぁ。スゲぇ……」


 ここは最終階層。一人暮らしだとしてもあまりにも狭いスペースにダンジョンコアが在っただけのこの部屋を、約五万DPほど消費して『草原フィールド』を展開していた。

 そこに在るのは障害物もない、一面に広がる草原と降り注ぐ日光のみ。


 広さはデフォルト設定の、ダンジョン一階層分。遮る壁がなくても、実は肉眼の視力には自信が無い俺では、端が見えない程広かった。

 迷宮の最深部、奈落の奥底だというのに吹いている爽やかな風が心地良かった。


 やはり、人間が生活するのに光一つ無い奈落の底は辛いものがある。


 奇跡の石のお陰で多少は明るいマイスウィートルームだって、ここに比べれば断然暗い。

 知っているだろうか? どんな人間でも、例え間接にでも日の光を浴びなければ精神が病んでしまうと言うデータを。

 逆に言えば、日の光には人の心を豊かにする効果がある。


 世界中の最高神に認定されているのは伊達じゃないって訳だ。


 まぁ、日光は降り注ぐけど太陽は見えないこの空じゃそれも含めて完全なまがい物なんだろうけど。空を見上げても目がシパシパしないぶんこちらの方が少し上等と言えよう。

 白蛇も心なしか心地よさそうに日の光に身を委ねていた。


 ……蛇は本来直射日光を嫌うはずなんだけど、まぁ白蛇は神獣だし。それに、長らく光り一つ入らない奈落のそこにいたとすれば、この強烈な明かりが恋しくもなるのだろうか。


「っと、スウィートマイルームと言えばあの石は回収しておきたいな。OKコア、この迷宮にある奇跡の石ってこの場から回収できたりするのか?」


《はい、可能です》


「じゃあ回収してくれ」


《それをするには、300DP掛かりますがよろしいでしょうか?》


「問題ない」


 ぎゅいーんと音を立てながらコアが奇跡の石を、俺が想定していた三倍ほどの量を回収してきた。


 因みに、DPとはダンジョンポイントの略で色々端折って説明するとダンジョン内で色々なことが出来るポイントだ。

 さっきみたいにフィールドを増設したり、指定のアイテムを回収したり。或いは武器を作ったり、ご飯をデリバリーしたりモンスターを召喚したりするのにも使える。


 そして、このダンジョンにあったDPは七千八百兆ポイントだった。それに加えここ数年の日間平均収入は一億ちょっとって感じらしい。


 実質無限だ。世界最難関の迷宮の名も伊達じゃない。

 聞けばこの迷宮自体が、世界の創世と同時に出来た迷宮の一角らしく初代の迷宮主も創世神の一人だったのだとか。

 俺なんかがあんな方法で継いでしまって申し訳ない限りである。


 と言うか、DPが多すぎてどう使えば良いか解らない。


 過ぎたるは及ばざるがごとしとはこのことを言うのだろう。でもまぁとりあえずは生活を充実させていきながら、色々と欠陥の多そうなこの迷宮を改造していくと言う方針で行こうと思う。


 日光浴も十分に満喫した俺は、とりあえずこの草原に俺が住む用の家を設立した。


 あんまり広すぎても「トイレに行くのに一々面倒」とかの弊害が出たら嫌なので、とりあえずは12畳一間くらいの小さな家を建てた。

 狭かったら、一言でいくらでも増設できるし問題ないだろう。


 じゃあ、後は風呂入って寝るか!


 疲れたし!!!

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