なんか迷宮攻略しちゃってました

 それからは最早完全に八つ当たりなんだけど、倒せる敵は全部白蛇にドレインタッチで倒して貰いながら先に進むことにした。

 とにもかくにも、白蛇のドレインタッチが強すぎる。


 小さな身体で懐に忍び込んで、巨大化して巻き付いてからHP・MP・経験値を根こそぎ吸っていく。


 一度絡まれたらレベルが下がるので、ステータスも下がるし抵抗はほぼ不可能になる。後はそのままHPを吸い尽くされて死ぬだけ。

 そしてそのHPやMPは見た感じ全部俺に流れてくる――経験値は可視化できないので正確にはわからないが、全部そうだ。


 お陰でHPとMPがスゴいことになっている。俺の最大容量の軽く五十倍は蓄積されていた。


 最早パンクしそうで怖いが、身体そのものは悲鳴を上げるどころか元気ビンビンすぎてヤバい。

 経験値は――まぁ普通にレベル99以上に上げられないようになっているので、無駄になっているのか、それとも経験値も最大容量を天元突破してしまっているのか。


 とにもかくにも、モンスターをやり過ごさなくて良くなったので探索のペースは一気に加速した。


 尤も安全策として、一応白蛇に敵の強さだけは逐一伝えるようにしているけど。

 この白蛇は非常に賢いので、まぁ勝てなさそうな相手は普通にやり過ごしてくれるだろう――まぁ、今のところいないけど。


 と、そんなこんなでアイテムを集めながらとうとう最下層に到着した。


 目の前の大きな扉を鑑定してみると『ボス部屋』と書かれている。


 俺は透視の眼鏡で扉を透かしてみると――あれ? なかにはなにもない?


 炎の滾る大きな柱が二つあって、その中央にボスとかがいてもおかしくなさそうなのだけど……俺は、不思議に思いながらボス部屋のなかをそろりと覗いた。


 ――なにあれ。ヤバいヤバいヤバい!!!


 その部屋にいたのは『ロード・オブ・バフォメット』……牛の下半身にマッチョな上体そして山羊の顔――見るからに強そうな化け物が透視の眼鏡では認識できなかった。

 いや、と思ってもう一度扉を閉めて確認すると薄らとその悪魔は存在していた。


『ロード・オブ・バフォメット』――レベル99 攻撃力三十万・HP百万。


 補正値は超極大。


 その他のステータスも異常に高い。百万以上あるMPと、その他のステータスも運と素早さを除けば三十万以上。

 どれもが高水準なのに、耐性の数が半端なかった。


 ありとあらゆる魔法属性・状態異常への最大級の耐性はもちろんのこと、加えて全ステータスに極大補正をかけるスキルがそれぞれある上に、しかも全属性に特攻まで付いている。

 他にも認識阻害や、干渉に対する極大の耐性まで。


 だから、最初扉越しにはあの化け物の存在を認識できなかった。


 あんなにも恐ろしく強大な敵なのに、鑑定を使って目をこらさなければうっかりと見失ってしまいそうだ。なんと恐ろしく、なんと馬鹿げた敵なのだろう。

 或いはこの迷宮が途中まで杜撰だったのも、全ての強さをこの化け物につぎ込んだからに他ならないのではないだろうか?


「蛇公……あの化け物に勝てるか?」


 白蛇は初めて首を横に振り、不可能を示した。

 そりゃあそうだろう。あんなのに勝てるわけがない。


 しかし、質の悪いことにあいつはボスだ。


 俺は膝をついて項垂れる。


 この迷宮を脱出するにしろ、なにかするにしろ状況を打破・或いは改善を求めるならあのボスを倒すのは必要不可欠!!

 なのに、なのにどうしてあの化け物はあんなにも非常識なまでに強いのか!!!!


 俺は目の前に映る、青白い宝石を見つめながら嘆いていた。


 ん? 青白い宝石? なんじゃありゃ――『ダンジョンコア』――迷宮の心臓。迷宮主不在。触れた者には迷宮主の資格が与えられる。

 あれ? これ、つまり掘ればクリアってことなんじゃね?


 倍率的に、クソ厚い床だけどまぁあの化け物を倒すより掘り進める方が現実的。


「よし、蛇公! 穴を掘れ!」


 すると、蛇は首を横に振ってから一度大きくなって、床に激突を伴う攻撃を仕掛けたが――ガギン!!……弾かれた。

 なるほど、あの白蛇でも不可能なほどに強固な床。


 やはり八方ふさがり。そもそも掘れるんだったらこの蛇も最初からやっているか。


 俺はやはり事態が進展しないこの絶望に、しかし、どうにか打開策はないかとアイテムボックスを物色していく。

 結界の王笏――違う。パンドラの箱――違う。深淵龍の逆鱗――違う。


 俺はなにか使えそうなものがないか更に探し続ける。


 無謬の盾――違う。……ん? 無謬の盾?


 俺は対になっている剣『至玉の剣』を取り出して、床に突き刺す。


 サクッ。


 気持ちのいい音を立てて、剣が床に突き刺さった。


「あ、あぁ……そりゃなんでも切れる剣だから。ダンジョンの床も切れるよな!」


 俺はサクサクとダンジョンの床を掘っていく。

 一つ掘っては俺のため。二つ掘っては蛇公のため。三つ掘っては……三つ掘っては……??


 ダンジョンの床は徐々に再生するので深さよりも思ったより手間が掛かったが、まぁあの悪魔と戦うよりは何千倍も楽な仕事だ。

 不労のサンダルのお陰で実質疲れ知らずな身体だし、レベル99の肉体もなんだかんだで伊達じゃないのだろう。


 数時間のスコップ作業の末に、俺は迷宮の最深階層に到達し、晴れてこの迷宮の迷宮主になった。


 迷宮攻略!!!


 白蛇が俺を白々しい目で見ている気がした。

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