スキルオーブがヤバすぎました

 ここの迷宮主は、鑑定持ちが『隠密のスウェット』と『透視の眼鏡』を拾っちゃった時はどう対応するつもりだったんだろう。

 もし、それ自体がこの先の階層で対応されていたら俺はそのまま死んでしまうことになるのだが……。


 順調すぎて逆に不安になるくらいに、ここの迷宮探索は順調を極めていた。


 白蛇がこの迷宮の構造を知っているらしく、スムーズに下の階層へと繋がる入り口まで案内してくれる。


 その上でスウェットと眼鏡のコンボ。アイテムは『至玉の剣』『無謬の盾』を初めとして『宵闇の毒槍』『アサシンズスタッフ』などの強力そうな装備や『要塞の鎧』など防御力だけはピカイチっぽい装備までたくさん用意されていた。

 どれもこれも、素人である俺が使うと碌な結果にならなさそうな強力すぎる装備なのでアイテムボックスに仕舞っているが。


 特に防具の類いは重いから敢えて持ち歩きたくなかった。どうせ敵と遭遇したら一巻の終わりでもあるし。


 肉や種、木の実、毛皮に鱗よく解らない金属宝石。大体はドロップアイテムなのかそんじょそこらに落ちまくってるけど、たまにそれらが宝箱に入っていることもある。

 宝箱に入っていたらこれらは明確に外れだ。


 逆に装備類は当たりの部類に入るのだろう。


 しかし、当たりと言えば『スキルオーブ』と言うものが偶に手に入る。


 玉虫色に光る不思議な、色んな形色んな色をした玉なのか宝石なのかもそれぞれ違う――ただ、共通点として『才能』が込められた石である――それが落ちていたり宝箱に入っていたり。


 スキルオーブは、俺が衛兵をしていた時からとても貴重だと言うことは知っていた。


 何でもモンスターの持つ固有の特性や、迷宮で死んでしまった冒険者が稀に持つ固有のスキルが結晶として具現化したものだという。

 これを使えばたちどころに、それらの特性や固有スキルが使えるようになるらしい。


 ……まぁ、こんな深い奈落にあった迷宮に落ちているスキルオーブだ。当然、俺が使ってもMPとか技量とかが余裕で足りないので使うだけもったいない気がしてならない。

 むしろ、蛇に使って貰った方が遙かにマシなまである。


 ……。


「そうするか。なんか良い感じのスキルオーブが~~」


 アイテムボックスを開けて、スキルオーブを物色しているとおもむろに蛇がアイテムボックスに入り込んで一つのスキルオーブを取り出した。

『ドレインタッチ』――リッチーの固有スキル。HP、MP、経験値を触れた相手から吸収できる。


 そもそもこの迷宮じゃ相手に触れられないから、使えないと諦めた代物である。


「これが良いのか?」


 白蛇がこくこくと頷いた。俺は迷わず白蛇にスキルオーブを食わせる。

 すると、白蛇が薄ら青く光って……確かにスキルを習得したのだと理解した。


 他には『再生力』とかどうだろうか?


 毎秒ごとにHPが5%ほど回復するという最強スキル。20秒で傷がほぼ完治するのはスゴいが、俺が敵と対面した時には一秒と持たずに死ぬし、そもそもHPとMPはスリッパの回復で十二分に間に合っているから必要性を疑問視したスキルだ。

 白蛇はなんだかんだで奈落の木阿弥の構造にも詳しいみたいだし、恐らくこの迷宮の魔物と互角以上に戦えるくらいには強いのかもしれない。


『神獣』だからか、明確なステータスは確認できないけど、俺の鑑定でも確認できないってことは相当なのかもしれない。


 と白蛇は再生力の方は首を振って御免被っていた。


「……あれ? もしかして、もう既に持ってるとか?」


 こくこくと頷く。……まぁ、持っているなら仕方が無い。

 そもそも、白蛇も俺と一緒にこうして隠れて歩いているなら強化もそんなに意味が無いのかもしれない。


 考察しながらついでとばかりにスキルオーブを更に物色。


 すると、スルスルと白蛇が俺の懐から抜け出してみるみる――昨日のサイズまで巨大化する。そして、その先には『バフォメット・ビースト』と言う名の――レベル98!? 攻撃力二万…HP十万超え!?

 そんな化け物に、白蛇がぐるぐると巨大な身体で巻き付いて拘束した。


 俺はあの化け物のステータスが信じられず、目を擦ってもう一度確認する。


『バフォメット・ビースト』――レベル32……攻撃力二千…HP一万。決して弱くはない。余裕で俺よりも強いし、そのレベルでは信じられないほどのステータス補正だ。

 あれ? 怪訝に思ってもう一度見ると、次の瞬間にはそのバフォメット・ビーストとやらは最早消え失せていて、ドロップアイテムとして赤い宝石のような――『悪魔の宝石』を落としていった。


 蛇がスルスルと懐に戻ってくる。


 ん? ……あぁこれがドレインタッチ。ヤバいなぁと思いつつ、ふと自分の身体になにか奇妙な変化が起こったのを感じた。

 白蛇を鑑定してみると『神獣・使い魔。スキルドレインタッチ・リンク』と表記されていた。


 リンク。不思議に思って自分のステータスを覗いてみると、偉いことになっていた。


 いつの間にかレベルが99にまで上がっていて、HPゲージもMPゲージもとんでもないことになっていた。具体的には最大容量二千のHPに二万の数字だけが無理矢理乗っかっていたりという、まさかの容量オーバー。


 だからか。こんなに元気が有り余って仕方がないのは。


 って言うか、レベル99!? ……昨日見た時は37まで上がっていて、実は驚いていたりしたんだけど俺、いつの間にかカンストしちゃってたよ。

 しかし、白蛇が戦っていただけなのに何で? と思って得心がいった。


『リンク』――つまり、バフォメット・ビーストほどの補正値極大の化け物がレベル98に上がるために吸収してきた経験値。

 それが白蛇のドレインタッチを通して俺に渡ってきたのだろう。

 仮に半分の経験値が俺に入ってきたとしたら、補正値が並程度の俺ならそれだけで余裕でカンストする訳か。


 しかもレベル99でも、奈落のモンスターのどれよりも弱いって言う。


 才能のなさを痛感するようで哀しくなった。

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