奈落の底はアイテム天国でした

 気を取り直して奈落の底を歩いていると、宝箱を発見した。


 鑑定をフルに活用して罠やモンスターが近くにないか確認する。

 もう浮かれたりスキップしたりしない。さっきみたいに怖い目に遭うのは流石にもう懲りたからだ。


 俺は安全を確認してから宝箱を開ける――『透視の眼鏡』


 見た目は普通の眼鏡のようだけど、つけるとどんなものでも透視出来るらしい。覗き専用アイテムかな? エロ漫画にありそうな…と思いつつ試しにつけてみると、この暗闇の視界が一気に明るくなるのを感じた。


「うぉぉぉ! スげぇぇええええ!!!」


 しかも調節すれば壁とかも透かしてみることが出来る。――お、壁二枚を隔てた先にも宝箱がある! でも、その一つ前にはモンスターが徘徊しているから気をつけなければならないな。


 久しぶりの視界に有益すぎる効果。エロ漫画にありそうな…とか言ってゴメン!


 この光の届かない奈落ではこの眼鏡は必需品なので、常につけてなければならない。

 なので、別にエロ目的と言うわけではないけど、この奈落の散策中に偶然魔界から来ていた美少女悪魔っ娘ちゃんと遭遇して偶々色々透かしちゃったとしても致し方ないことなのかもしれない。


 いや、精巧な人型の悪魔は悉くが貴族級以上の化け物揃いなので、実際に来るのは勘弁して欲しいけど。


「あー、一瞬だけでもあの勇者パーティに戻りたいなぁ」


 そう呟きながら、透視の眼鏡とスウェットを駆使してモンスターを回避しつつ、ダンジョンに落ちているアイテムとか宝箱の回収をし続けた。



 二日ほどそれを繰り返していると、中々に良い感じのアイテムも揃ってくる。


 特に有益だと思ったアイテムは以下の三つだ。


 脚にフィットし歩く度にHPやMPが回復していく上にスリップダメージを無視できる『不労のサンダル』

 置くだけで魔物を寄せ付けない強力な結界が張れる『結界の王笏』

 嵌めるだけで周囲の魔力などを吸収しレベルを上げてくれる『修得の指輪』


 特に一番目の不労のスリッパがスゴく有用で、これのお陰で一般人に毛が生えた程度の体力しか無い俺でもほぼ疲労なしで丸二日歩き続けることが出来た。

 後は三つ目の指輪でレベルが半日ごとに上がっていたから、それで体力のリセットがされているというのもあるかもしれないけど。


 それ以外にも食べられそうな肉とか種とか、形の良い鍋とか色々と揃ってかなりホクホク。


 尤も大半は鱗とか宝玉とか金属とか、使い道も解らなければ加工の目処も立たない素材ばっかりなのだけれど、まぁ肉は兎も角、装備品や種なんかはモンスターのレアドロップか宝箱でしか手に入らないしこんなものなんだろう。


「……っと、まだ宝箱があったか」


 ……さっきこの辺は探索し終えたと思っていたんだけど。怪訝に思いながら先んじて宝箱の中身を透視してみると……うげっ!


 宝箱の中身には見たこともないような恐ろしいしわしわの化け物みたいなものが潜んでいた。


 透視の眼鏡を外して鑑定をしてみると『宝箱』と書かれているそれの中身を眼鏡をかけて鑑定してみると『ミミック』と書かれていた。

 ……宝箱に寄生するタイプのミミック。


 実は鑑定スキルの欠点として、箱や袋の中身までは鑑定できないというものがある。


 だから金貨袋を渡されたとして『金貨袋』と鑑定結果が出ても、中に銀貨がたくさん入っていても気付けなかったり、宝箱に何が入っているかまでは解らなかったり、と言うものがあるのだ。


 ヤバかった。透視の眼鏡様々過ぎる。


 ……本当に、覗きアイテムとか思ってゴメン!



 と、ミミックにひとしきり驚いたら急にドッと疲れが押し寄せてきた。


 まぁ、丸一日歩いていたし一つを除いて壁越しとは言え何度もモンスターにも遭遇した。それに珍しいアイテムにはひっきりなしに興奮しっぱなしだった。

 いくらレベルが上がって、不労のスリッパを履いて肉体的な疲労が殆どなくなったとは言え、精神的な疲れまでは取り除けないのだろう。


 それを自覚すると、最早歩くのも億劫になってくる。


 幸い、先程拾った『結界の王笏』がある。流石にいつどんな魔物が通りかかるか解らない通路でこれを使って野宿をするほどの度胸はないけれど、どこか良い感じの物陰を見つけたらそこでこれを使って、今日は休んでしまおう。

 そう決意しながら、最後の気力を振り絞ってねぐらを探し続ける。


 更に一刻ほど歩いた。


「おぉぉぉ」


 なんだかんだで壁越しに魔物が見えたり、少し隙間が気になったりで、良い感じの場所が見つけられずにいた俺は、目にした光景があまりにも綺麗だったので思わず感嘆の声を漏らしてしまった。


 かなり分厚い岩に包まれた、小さな入り口があるだけの洞穴。

 透視の眼鏡で中身は確認していたが、しゃがんで入り口に入り眼鏡を外してその光景を見てみると、その美しさも一入だった。


 青白く光る綺麗な岩。その空間だけは光に溢れていて、真っ暗だった奈落の底をずっと歩き続けていた俺には大きな感動を及ぼした。

 その岩の名は『奇跡の石』


 その石から放たれる優しい光にはあらゆる生物を癒やす力があり、その石からしたたる水は生命の源を潤す効果があるらしい。

 ここは、恐らくこの最難関の迷宮を最後まで攻略しこの奈落の底にまでたどり着いた冒険者を癒やす、そういう場所なのだろう。


 だから、こんなにも安全そうでこんなにも人間に優しい。


 ここしかない。

 他に俺が泊まるとしたらここしかないのだと確信した俺はこの洞穴の中央に結界の王笏を張り、テントのような形の退魔結界を張る。


 そして、決心した。


 もう、寝よう。と。

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