第6話 引っ張りだこ

(おはよーございまーす。朝です。

今俺は、ナイル殿下が宿泊しているホテルの、ロビーにいまーす。)


……寝起きドッキリみたいな展開を想像したあなた、残念でした。

ナイル殿下の朝は早かったようです。

まだ日が登って一時間ほどしか経っていない早朝。

この世界では日の出と共に起きるので、もう活動時間ではあるが……俺にとっては充分早い時刻。

俺とルナとルディは、ナイル殿下に再び会うため、ラーヴァで1番品位の高いホテルへとやってきていた。


ビックリしたのは、ホテルに入った瞬間。

ロビーのカフェでナイル殿下が朝食をとっていた事だろうか。

俺たちを見つけたナイル殿下が、カフェで手を振りながら、元気なあいさつをくれた。


「ヤヤッ!零史ーおはようさんです。」

「あ、ナイルでっ……ナイルさぁん、キャタピラ乗りたくないですか?」

「乗るしたいです!」

「俺たちがキャタピラでジヴォート帝国までお送りしますよ!」


危ない、お忍びで来ているのに『殿下』と大きな声で言う所だった。

一瞬執事さんの目がキランと光ったのを俺は見た。

ギリギリ踏み止まった自分グッジョブ!


「ちょっと待つください。まだ救世主に会いたくて会いたくて震えます。」

「ちゃんと連絡を取れば会うのはさほど難しく無いと思うのですが。なぜ、会えないんでしょうか?」


ルナの質問に、俺はハッとなる。

そうだ、レグルスは野次馬に囲まれて騎士団から出られないだけで、別に会えないわけではない。


「お返事を待ってるです。」

「お約束をとりつけるため、神殿へ行き面会願いの手紙を置いてきたのですが。神殿の前の貢ぎ物が足りなかったのでしょうか?」

「神殿の前の、って……えぇ嘘!?ナイルでぇっ……ナイルさん達も、あそこに花を置いてたんですか!?」

「イッショケンメー、ガラヴァの言葉で手紙、書きました。」

「ガラヴァの言葉で……ですか。」

(あれ?もしかして子供からの手紙の中に、ナイル殿下のも混ざっていたのかもしれない?)


外国の文字だもんな、綺麗には書けなかったのだろう。

そうか、お忍びだから正体を隠して……。

王子殿下が野次馬に混ざってお花を供えている図を思い浮かべて真顔になってしまった。

何て……花が似合うんだ!イケメンめ!


「じゃあ一緒に救世主に会いに行きましょう!」

「ありがとーお!零史はビッグスターだったんですね!」


ナイル殿下が俺を尊敬の眼差しで見ている。

世の中うまく生きていく為にはコネが必要なのさ、ジヴォート帝国の王子殿下との繋がりを磐石なものとするなら。

俺は救世主(レグルス)でも何でも使う!


……なんてね、ナイル殿下達が正規ルートで面会の連絡を入れたらすんなり会えただろうに、この二人面白すぎないだろうか。

いや待てよ?もしかしたらジヴォート帝国では手紙と花を持っていかなければいけないのかもしれない。

これからジヴォート帝国に行くのだ、俺は心のメモにそっと書き込んでおいた。

俺がそんなことを考えている間に、ナイル殿下は、食後の紅茶を飲み終えたようである。


「ゴチになりましたー。さて、救世主さま馳せ参じます!」

「えいえいおー!ですね。」


ナイル殿下も、ルナも、使い方は間違っているが可愛いので許します。

こうしてトンチンカンなパーティが結成され、俺たちは連れ立って騎士団に向かいましたとさ。


「たーのもー!ジヴォート帝国の王子殿下連れてきましたよ。」

「「…………は?」」


俺たちは無事騎士団へと辿り着き、団長室へと迎え入れられた。

騎士団は顔パスで通れるので、ここまで普通に歩いてきただけなのだが。

そして、団長室に入っての第一声が、あれである。

突然現れた俺の言葉に、レグルスとリゲルは可哀想な子を見る目で出迎えた。

固まっているレグルスに、満面の笑みのナイル殿下が飛び付いていった。


「おめでとうございます!もしもし救世主さんですか?アルナイルです!」

「お初にお目にかかります。ジヴォート帝国のアルナイル王子殿下です。私(わたくし)は殿下の執事でございます。」

「え?え?え?」


レグルスはされるがままに握手をしている。


「ここで会ったが百年目!拙者忍びの者、コチコチ大丈夫です。」

「やっとお会いする事が出来うれしいです。殿下はお忍びでラーヴァに来ているため、どうか畏まらないでください。」

「あ、はい。」


瞬きを忘れているレグルスとリゲルが、壊れたブリキのオモチャのようにぎこちなく俺を振り返った。


「ナンデ、ジヴォート帝国ノ王子ガココニ??」

「ホンモノデスカ?」

「おっほぉん!殿下の右手につけられている指輪にジヴォート帝国王家の太陽の紋章がございます。」


執事さんの言葉に、俺も含めレグルスとリゲルもナイル殿下の手元を覗き込んだ。

少しゴツめの金の指輪に、象形文字のような太陽が彫りこまれている。


「へぇ~!」

「へぇ~って零史は確認しなかったのか!?」

「うん、王子様オーラあったし。」

(ほら、夢の国みたいなさ。)


レグルスとリゲルは、もしかしたら聖霊はオーラで王族か分かるのかもしれないと思い、複雑な顔を浮かべている。

だがナイル殿下の手前、聞けなくてモヤモヤしているようだ。

まさか王子様オーラ何か見えず、言われたままを信じてた何て口が裂けても言えない。

いや、言わなくてもバレてる気がする。

レグルスとリゲルに見つめられ冷や汗を流す俺に、ルナがポツリと一言。


「そんな純粋な零史も素敵です。」


ルナはどこまでも俺の味方だ!ありがとうルナ!

今すぐウサギverのルナをスリスリしてあげたいよ。

そういえば後で聞いた話だが、ルナとツィーはちゃんと指輪に気づいていたらしい。


(俺だって王家の紋章さえ知ってれば気づけたよ!きっと……。)


レグルスもリゲルも片ひざを付こうとした所をやんわりと止められ、それぞれソファへと着席した。

執事さんはあいかわらずナイル殿下の後ろに立っている。

にこやかなナイル殿下がその顔を曇らせて、今回レグルスに会いに来た目的を話し始めた。

いや、実際には執事さんが翻訳してくれるのを聞いた。


「魔物の狂暴化は人為的なものでした。ドラゴンがナザット国を襲ったように、ガラヴァ皇信国以外でも多発しています。

犯人は世界的な規模で活動していると言うことです。

各国で対処できる限度を越えている。なので、今日は秘密裏に同盟を結びに参りました。」


ここで「なぜ皇都ではなくラーヴァに来たのか?」という質問が出ない事に、ナイル殿下と執事さんは、笑みを深めた。

暗に、救世主(レグルス)も皇都に不信感を抱いているという事が分かったからだ。

そして説明は続く。


「ドラゴンは魔物最強といっても過言ではありません。しかし、そのドラゴンが倒された事により、犯人には『魔物の狂暴化』以上のものが必要となりました。」


最強の魔物ドラゴンで対抗出来なかったから、魔物の狂暴化は頭打ちだ。

新しく出現した救世主に対抗するには、それ以上のモノが必要なのは俺でもわかった。


「なので忠告させていただきます。犯人は次の一手として、救世主(あなた)を仲間に引き入れようとするでしょう。」

「俺を……?」


救世主の方が強いなら、その救世主を仲間にしちゃえば良いなんて、そんな事が出来るのか?

いや、待てよ……レグルスが聖信教を疑っていると知らなければ、それこそ聖霊のお告げだとか何とか言って従わそうとするかもしれない。


「もし、ジヴォート帝国に亡命するのであれば、私(わたくし)どもにはその用意がございますが。いかがいたしますか?」


ナイル殿下の優しい瞳が、レグルスを真っ直ぐに見た。

レグルスは突然の提案に、固まっていた。

俺も同じだ、レグルスがジヴォート帝国に亡命……たしかに、ガラヴァ皇信国の中で聖信教に逆らうことは難しいだろう。かといって敵の駒になるつもりもない。

レグルスは1度目をつぶり、ゆっくりと息を吐いた。


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異世界だけど宇宙飛行士になりたい!~科学が異端なので命狙われてます~ 第二章 実現不可能な平和編 まことまと @makotomato

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