第5話 ルディのホームラン!
「まさか、ジヴォートの王子殿下が来るなんて。」
ナイル殿下が去っていった後、いままで気を張っていたスピカが、俺の膝にぐでっと倒れこんできた。
反対側のルナはまだ厳しい顔のままに俺の顔を覗き込む。
「しかし零史、気を付けてください。ジヴォート帝国も科学者は異端とされています。RENSAが科学者組織である事は悟られないように。」
「そうね、ジヴォートの方が厳しいくらいだもの……あ、そうだったわ!ルディ、あの設計図を出して。」
ツィーが何かを思い出したように手を打ち、ルディを振り返る。
ルディはツィーの言葉に、慌てて白衣の内ポケットから一枚の紙を取り出した。
「そうだ、零史に見せようと思ってたんだった。コレ……店(うち)の技師が持ってた、設計図なんだけど。」
「設計図?俺に読めるかなぁ……。」
「なぁに?これ。」
ルディが机に広げた設計図を皆で覗き込む。
スピカはそれを見て、不思議そうに腕をくんだ。
俺も設計図に注目すると、そこには車輪と座席がパッと見え、エンジンらしきものまであるのがわかった。
ハッと、ルナと顔を見合わせる。
「「車だ(です)!!」」
「「くるま?」」
「車なら知ってるわ、貴族階級が使う娯楽用の乗り物でしょう?」
車と聞いて首をかしげるスピカとルディに、ツィーがこの世界の車を説明する。
実は『車もどき』なら既に存在しているのだ。
魔法で車輪を動かして進む車である。
魔力消費量がバカみたいに多く、一部の貴族が……たぶん奴隷や悪魔の子を使って楽しむ、娯楽用の乗り物になっている。
一般市民は馬車を使うため、知らない人も多いようだ。
「この設計図、最初は馬車かと思ったけど……変なモノがついてるでしょう?馬を繋ぐ器具も無い。技師がよく分からない注文でつっぱねたんだけど、設計図だけ残してたんですって。それを、ルディが貰ってきたのよ。」
「僕も最初は何か分からなかったんですけど、無意味な設計には思えなくて……もしかして科学者が考えた設計なんじゃないかと。」
「ルディ、ホームランだよ!これぞまさしく俺の望んでいた科学者かも知れない!」
森で暮らしていた時からずっと探していた、科学燃料とエンジンを開発してくれる科学者が見つかるかもしれない!
少なくともエンジンの設計はあと一歩に見える。
俺は嬉しい知らせにピョンピョン跳び跳ねてルディを上下に揺らした。
「あばばばばばば……!」
「新しい仲間(科学者)が見つかるかも!」
「よかったね零史お兄ちゃん!」
スピカも大喜びである。
ルナも興味深そうに設計図を覗き込んでいた。
「それで、この設計図の主はラーヴァにいるんですか?」
「いいえ、ジヴォート帝国よ。」
「ジヴォート帝国からわざわざ?」
「ジヴォートに鉱山は無いし技師が少ないのよ。それに、科学者とバレた時の保険の為、国外に注文したんじゃないかしら?」
「なるほど。」
これはジヴォートに行かなければならないだろう。
今もっともRENSAに入って欲しい科学者ナンバーワンに違いない!
RENSAの第1目的、科学者の勧誘と保護を忘れてはならないのである。
何よりロケット打ち上げにはまず推進力だ!エンジンと燃料は欠かせない。
「零史、ジヴォート帝国に向かうなら今ですよ。」
「そうね、今ならジヴォート帝国に入国するコネもある。ナイル殿下がいらっしゃったのは聖霊のお告げかもと思うわ。あら、聖霊は貴方だったわね。」
「んー……でもなー、採用担当のシリウスを待たないと何て言われるか……。」
知っているかもしれないが、シリウスは意外と『採用担当』である事を気に入っている。
置いていったら何を言われるか……でも、ナザットから帰ってきて休む間もなくジヴォートに連れてくのは気が引けるしなぁ。
「あの~……僕っ、ジヴォート帝国に行きたいです!」
「へ?」
そこへ、弱腰ながらもビシッと右手を上げたルディが名乗り出てきた。
俺たちは突然のルディの申し出に、目が点になる。
お世辞にもアウトドア派には見えないルディが、灼熱の砂漠の旅に立候補したのだ。
しかとルディは、乗り物酔いするはず……。
「ルディ……ジヴォート帝国って砂漠の国だよ?大丈夫、馬車だよ?」
「あああのっ!ジヴォート帝国特有の魔物には毒を持った魔物が多くて、その……研究材料に……その毒が欲しい、です。」
ルディは、何故か後半になるほど目線が落ちて、背が丸まり、しまいには泣きそうな顔で俺たちを見上げてくる。
「毒?…………良いじゃん、研究材料!取りに行こう!!」
「いいんですか?足手まといに……。」
「だいじょーぶ大丈夫!科学の発展の為に、俺も協力するよ!」
という訳で、ジヴォート行きは俺とルナ、そしてルディが加わった。
「という訳で、ルディと3人でジヴォート帝国行ってくる!」
【どーゆう訳なんだ!オレもついていく!】
その日の夜、シリウスに通信機で連絡をいれる事にした。
案の定、ちょっとムッとした声が聞こえる。
「シリウスはまだナザットだろ?それにレグルスとリゲルも、皇都に呼ばれてるみたいで。ラーヴァが手薄になるんだ。」
【オレはいっつも貧乏くじだ。】
「ごめーん、いつも頼りにしてるんだって、採用担当ぉ~!」
猫なで声を男の俺が出しても気持ち悪いだけだが、こんな言葉でもシリウスは気分が良くなったようでワントーン明るい声が返ってきた。
【しょうがない、ラーヴァはオレが守ってやる。】
「ありがとうシリウス!お土産買って帰るよー。おやすみ!」
【あっ、ちょっ待てよ……リーン♪】
シリウスとの通話を終え、ジヴォート行きのメンバーと、ラーヴァに残るメンバーを頭の中で整理する。
スピカは、前回出掛けたのでお留守番組だ。
ベラも行きたがるかと思いきや、騎士団の特訓が大詰めらしく、そちらに注力する事にしたそうだ。
「縛って連れてってくれてもいいのぉよ♡」
と舌なめずりをしていたが、そこは全力の光学迷彩で逃げさせて貰った。
アルタイルは、ルディの抜けたエルナト商店の穴埋めに抜擢されており、この点はスピカも手伝ってくれるようである。
まぁ、新メンバーの勧誘に、大人数で押し掛けてもしょうがないしね。
ここはRENSAの代表として、俺が頑張ってくるとしますか!
あ、そうだ。レグルスとリゲルに、今日得た情報も伝えておかねばならないだろう。
あわよくば皇都で、例の『枢機卿』が誰なのか探ってきて欲しいし。
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