封架接月

弓を絞るような月が

私と貴方の間に架かる

此処だけを見ていてほしいけれど

貴方はいつだって二つの距離にいる


私は求めない

私は望まない

ただ傍らにあって

ただ面影を追って

影のように、光のように

いなくなったらほんの少しだけ

寂しくなってよ


全ての感情に名前があるのなら

それは色の数ほど溢れてしまって

この掌が体温を探すように

行き場のない融解が襲い来る

雲が二人の間を縫い合わせたら

やがて輪郭は宵の果てに消えてゆく

それでも貴方は

あの子を見ているのかな

それでも私は

貴方の隣にいたいの


弓を絞るような月が

貴方とあの子の間に架かる

其処にしか無い一秒の為に

貴方はいつだって一つの歩幅を望む


私は諦める

私は堪え忍ぶ

ただ呼吸の代替として

ただ雨粒の媒介として

空白のように、生命のように

言葉の行き先が見つからないのなら

私で満たしてよ


全ての記憶に意味があるのなら

それは昨日が明日になるほど悲しい事で

この掌が静寂を探すように

行き場のない倒壊が襲い来る

雲が二人のまま覆い隠したら

やがて選択は宵の縁で果たされる

そうしたら貴方は

あの子のものになるのかな

それでも私は

貴方の隣にいたいの


貴方はいつだって

貴方はどうしたって

私の事を淡色でしか見てくれない

私も連れて行ってよ

目を凝らして囁く夜に弄んでよ

貴方色の泥塗なら

きっと雲みたいな味がする


全ての感情に名前があるのなら

それは色の数ほど溢れてしまって

この掌が体温を探すように

行き場のない融解が襲い来る

雲が二人の間を縫い合わせたら

やがて輪郭は宵の果てに消えてゆく

それでも貴方は

あの子を見ているのかな

それでも私は

貴方の隣にいたいの


それでも私は

貴方の隣にいたいの


それでも貴方は

それでも貴方は


それでも、私は。

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深層解鳴 宮葉 @mf_3tent

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