過去が暗いと思っているのは

秋月蓮華

過去が暗いと思っているのは

【過去が暗いと思っているのは】


異世界転生というのは話には聞いたことがあるが、まさか私がするなんて想っていなかった。

おぎゃあ、おぎゃあと私は泣いていて、見下ろしている両親、あの子が泣いているわ、なんて話していた。人生というのは分からないものである。


「お前は妙なものばかりを仲間に引き入れる」


「それには君も入っているのだけれどもね」


小さな村で生まれて、木こりの父親と専業主婦の母親の間ですくすく大きくなった私は十数年後、とあるギルドのギルド長となっていた。

プロジェクトのリーダーとか、家長とか、やることになったのは成り行きではあるが、成り行きをずっと続けている。

ドラゴンライダーである彼は本来ならば、ドラゴンライダーのギルド……私のギルドはとても雑多だが専門のギルドだってあるのだ……で

かなりの地位に恵まれているはずなのに私のギルドに所属してくれている。


「奴はどうした」


「カフェの買い出しに行かせたよ」


一階部分はカフェ兼酒場二階は住居になっている建物で、私はシードルを飲んでいた。前世は十七歳で終わっているので、シードルを

飲む機会なんてなかった。

奴というのは私が出会った異世界トリップをした少年だった。話を聞いてみたら、コンビニエンスストアによって、

週刊誌を立ち読みしたり唐揚げを買って、店から出たところ、アクセルとブレーキを間違えた老人の車に轢かれたのそうだ。


「やらせているのは事務か」


「やってくれたあの人が寿退社だし、代わりを探していたんだ」


あの人は、私がこの街に来たときに世話をしてくれていた人だ。姉のような人である。最近になって結婚した。

それまではギルドにも付き合ってくれて、経理をやってくれていた。組織の運営はややこしい。


「ギルドの経営が軌道に乗っているとは言え」


「今の地位が良いよ。上のギルドなんて怖すぎる。偉い人って怖い」


彼が私の方を睨んでいる。お前が言うなと言う表情をしているが、私は怖くはない。そこそこの腕前しか持ってないし、

私、カテゴライズ的には魔法剣士で、魔法の方が大ざっばで剣の方がそれなりに得意だから、そうなっただけだ。

なお、魔術か魔法の違いはいくつかあるが私的には言い方の違いで良いんじゃない? って感じだ。雑なところは自覚している。


「ただいま、帰りました。井戸端会議に参加してたので僕だけで帰宅です」


「アイツは喋り過ぎる」


「近所付き合いは良いことだよ。機密とかうちのギルドには無いし」


出来たギルドはアットホームギルドだ。自認しているようで居て周囲から言われているからそう名乗っているだけである。

異世界トリップな彼が大量の荷物を抱えて帰ってきた。ドラゴンライダーの彼と私で補助に入る。彼にはこれが終わったら事務作業をして貰おう。




「ギルド長……って言うか、うちのギルドはもっと上の地位を狙えるって聴いたんですが」


「私は今のままで十分だし……上に行けばしがらみがな」


ドラゴンライダーの彼が書類をギルドの大元である神殿に出しに行き、私とコイツでドラゴンライダーのドラゴンに餌をあげていた。

餌は林檎である。この前の嵐で落ちた林檎を大量買いしたのだ。農家に資金を落とすことが援助であるし、ドラゴンも美味しい餌が食べられるから、

一石二鳥だ。


「僕はこのギルドが好きですよ。のんびりしてるから、ギルド長はどうしてこのギルドを作ったんです」


「成り行きかなぁ……」


私がこのギルドを作ったのは成り行きと、そして後悔と言うか、薄暗い理由である。前世の私は後に互いに相手を見つけ駆け落ちして消えた両親の元に生まれた。

五人姉弟の上から二番目で、一番上の姉が家計を支えていた。強くて誰とでも話が出来たりして、私の憧れだったものだ。自分を犠牲にして、私達を育ててくれた。

ある日、私と姉は口論した。

内容は覚えてないが姉は”貴方たちのせいで私の人生は犠牲になった!”と話したのだ。その言葉は今も私の心に刻まれている。

面と言われるとごめんなさいとしか言えない。私は泣いて、謝りまくって家を出て街をふらふらして、横断歩道を渡ろうとしたのだ。

歩行者側の信号が青だったのに無視して突っ込んできた車に身体がぶつかった。


「ギルド長が居て、ギルドが無かったら、僕はやばい状態だったのでありがとうございます」


「働いてくれるから良いよ」


彼は何度もお礼を言ってくれている。私は異世界転生者であることは秘密だ。言う機会がなかったし言うこともないだろうから、

ずっと秘密にはしておくつもりだけど、やばい状態と言うのは浮浪者状態で、場合によってはその場でお陀仏だっただろう。草原に来て良かったね。君。


「互助組織は便利ですよね」


「……そうだね」


互助、昔からあったことだ。下手なことをしたらハブられるということもあるけれど、互助が必要なのは人が一人では生きていけないからだ。

そうとはいえ、寄りかかりすぎは問題だし、ふとしたことで決壊することもある。


「ご近所付き合いとか内部付き合いが大変なこともありますけど」


「こんな私の元によく集まってくれていたよ」


私は姉の後悔を今も引きずっている。もっと助けてやれば良かったとか、もっとやれることはあったのではないかと

元の世界の姉には迷惑をかけまくった。

弟妹もそうか。両親は知らん。今の世界の両親にも感謝している。そんな気持ちになれているのは、過去があるからだけど。


「集まるのはギルド長が良い人だからです」


「姉に対してよくないことはしたのだが」


「それでも良いって言うか人間、最低一回は取り返しのつかないことはしますって」


君、明るく言うがフォローになってるようで、なっていないよ?


「しちゃっても、取り返せば良いんです」


だとしたら、今の私は取り返している最中か。私が満足するまでは、姉に対する気持ちが変わるまではこのままだが、


「参考になったよ」


私は彼に話しつつ、ドラゴンを撫でる。ドラゴンが鳴く。恐竜を撫でているとしたらこんな感じだろうかと、初めてドラゴンを撫でたときの気持ちを

想い出しつつ、私は改めて、現在を生きることにした。



【Fin】

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