ひだる火、さざら山

安良巻祐介

 

 長い間、さざら山のふもとの住民たちから「天狗の火」と言われていた不可思議な発光現象について、近年になって中央から派遣された除疫所の調査によって、天狗ではなく、それどころか修験道系の怪異ですらなく、五百年前に地表落下した異星の菌種家族が、いのちのあかしとして灯してきたコロニイ・ライト、それも近づく生物の活力を吸って輝きを増す厄災的な特性を持った、危険な"ひだる火"であるという事実が明らかにされ、祝い山として讃壽五色の幣束を幾つも立てられていたさざら山は、ものの数日で人に避けられる寂しい忌み山となり、昼夜を通して悲しげなやまびこが、おおうおおうと人恋しげに、果たしてかつて親しく通ってくれた人々が疎遠となった事への悲嘆か、或いは餌が取れなくなったことへの恨み節か、いずれなのかはわからぬながら、響くようになったという事だ。

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ひだる火、さざら山 安良巻祐介 @aramaki88

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