第6話《後半・準備を臆するな》

※第4話後半の美涼視点とも言える※




恨むわよ…愛璃さん……

なにが、楽しんでよ…

今日これからとか、ふざけんじゃないわよ!


通常の自動車とは比べものにならない内装の広さ、シートは列にならず、中央のセットテーブルを囲う形にある。

俗に言うリムジンと呼ばれるものだが、名前持ちで『グルーシスター 』という那須川財閥が自社開発しているモデル。

運転手を除けば、社内に居るのは美涼ただ一人。


「美涼お嬢様、行き先はショッピングモールなんですよね?それならば連絡しない方がよろしかったのでは?」


運転手、谷口はばつが悪そうにそう言った。

言われるまでも無い。用が無ければ、こっちから願い下げよ。


「仕方ないじゃないの…服は最低限しか、あの家には無いんだから……」


皮肉を込めながら呟く返す。

会話は無い。だって、たかだか運転手なんだから。

行き先へ、ショッピングモールへ、ただ移動手段が欲しかっただけ。


「ああ、お嬢様。そういえば、そのショッピングモールには那須川財閥の系列店がございますが、どうなされます?」


どこにでもあるのね。

那須川財閥、那須川グループ、私の血族。

そのトップがあんな人だなんて……この街行く人達は知っているのでしょうか。


「いえ、そこでは買いたくないわ。別の店に向かうわ。」


「かしこまりました。あいにくと駐車場には止められませんので、ある程度の場所で停車させていただきます。」


「構わないわ。買い終わったら、ここで着替えるから、あんたは外で警戒よろしくね?」


目的には着いたが、良い感じにピンと来るお店がなかなか見つからない。

すると、突然リムジンが停車した。

信号待ちではなくて、普通に。

そう言えば、さっき停車するって言ってたわね……それにしても急だけど。

さて、どうしたものかしら。

ここからは歩いて探さないと、、、


「お嬢様。まだ時間ではございませんが、どうやら彼はお待ちしているようですよ。」


「…え?」


何を言ってるの、谷口。

待ち合わせまでかなり余裕を待たせてきたのよ、そんなはずは無いでしょう。

って、、、まじだ。

あそこの入り口の柱にいるの…そう?

え?

なんで谷口、あんた判ったのよ!

それも私より早く!

専属運転手の前は執事だったみたいだけど、それにしても人を見分ける力ありすぎじゃないの?


「で、どうされますか?こちらに連絡を受け、夫人様がご用意した服一式がございますが…?」


「き、着るわよ!流石にこんなおしゃれじゃない格好で行けないじゃないの!!」


一式が入っているとおぼしき紙袋を受け取り、長谷川を外へ追い出す。

谷口は備え付けの機能、全窓黒化ブラックコートのスイッチを入れつつ、車の外へ出た。

出来るだけ素早く済ませて、脱いだ方の服を紙袋に仕舞ってからスイッチをもう一度押し、それを外にいる谷口への合図とする。


「お嬢様、終わりましたか?…お嬢様?」


見えてしまった。

あの、私の、真琴がナンパされているのを。

ブラックコートのデメリットは視界の全てがふさがれてしまうことで、これは中からだけでなく外からも同様。

メリットである炭素モノラルによる硬度上昇は対物ライフルも容易に弾くので、未だに実装されている。

そう、中からも…

気付けば、私は社外に飛び出していた。

人目もわきまえず、人混みも恐れず、

ただ一直線に進んでいく。

真琴がはっきりと見えてきた、怯えている。

それだけ分かった、それだけ分かればこいつの罪はそれでいい。

首を叩き折ろうとして、拳を握り、若干のスピンを掛けて放った。


しかし、


予想外にも


「…あの、後、ろ」


という真琴の呟きで、ナンパ男は振り返った。

見事、私の放った右ストレーーーーートが、顔面に入った。

あ、しまった。

ここは


「あ、…いけない!首手刀で、意識だけ刈ろうと思ってたのに……」


誤魔化そう。

多分、駄目かも?

あ、あれ…動かないな。


「あっ、真琴?…待った?」


首を横に振ったけれど、待っていたのは知っているので、多分ナンパ男が怖かったんだろうなぁ。

ここはあまり追究しない方が優しい女よね!



※ナンパ男との邂逅シーン。デート裏はまだまだ続く※

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

throughseir ースルーシィアー Sato kisA @kk_cross388

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ