第3話 キグルス攻略戦 後編
影が、交錯した。刃がぶつかり合い、空也は弾き飛ばされる。
凄まじい膂力――まるで、車に弾かれたような衝撃に、思わずたたらを踏む。そこへロニーは流れるように矢をつがえ、解き放った。
仰け反る。その鼻先を矢が駆けた。ロニーは瞬く間に二射目を構え――。
横っ飛びに躱す。一拍遅れて、彼の立っていた場所に、真紅の矢が突き立った。
空也はその間に体勢を立て直し、太刀を中段に構えながら、息を整える。
(くそ、あと、もう少しだけ押し込めれば――!)
もう、何度目の交錯だろうか。息も切れるほどのせめぎあいだった。
一進一退の攻防を繰り広げ続け、大分経つ。俊敏で早撃ちのロニーに、隙がなく、真紅のフォローのおかげで、何とか拮抗が成り立っていた。
とはいえ、ロニーは汗一つかいていない。涼しい顔で、ただ厄介そうに眉を寄せる。
「思った以上にやるなあ、二人とも。息ぴったりで手強い」
「そりゃ、どうも――んで、どうする?」
「俺としては、さっさと仲間と合流したい――」
その言葉が途切れ、ロニーは顔を横に傾ける。その横を、矢が駆け抜けた。
真紅の放った矢だ。それは、彼の後ろの家の壁に突き立つ。その様子に、ロニーはへらりと笑みを浮かべた。
「血気盛んなことで――俺を、逃がすつもりはなさそうだな。様子見、程度だったが――えらいものを引き当てちまった」
「その割には、余裕だな」
「ま、そりゃ――」
言わせない。瞬間、空也は地を蹴っていた。一足飛びに踏み込み、太刀を袈裟懸けに振り下ろす――ロニーは瞬時に短刀を振り上げて合わせる。
火花が散り、ぶつかり合う刃。宙を舞ったのは、空也の太刀。
だが、弾き飛ばされたのではない。手放しただけだ。
瞬時に、ロニーの目先で、手を叩き合わせる――〈空突〉の痛撃。
「ぐっ!?」
衝撃によろめいたロニーに、空也は踏み込んで〈斬指〉を構える。
体勢を崩したロニーに防ぐ手段はない、そのまま、喉仏に爪撃を繰り出し――。
「空也くんッ!」
「ッ!」
その切羽詰まった声に、咄嗟にバックステップを踏んだ。瞬間、鼻先を掠めたのは、短刀の一撃。体勢を崩したはずの、ロニーが刃を振り上げていた。
(まさか〈空突〉を――耐えたッ!?)
振り上げた刃が鮮やかに返され、振り下ろされる――それを、辛うじて顔を背けて躱す。だが、間に合わず、頬が裂けて焼けるような痛みが走った。
だが、その間に空也は短刀を抜くのが間に合っている。ロニーは舌打ちしながら、一歩引き下がり、弓矢を構える――。
空也はそれを見ながら、真紅の気配を感じる――その息遣いを、疑わない。
首を斜めに傾ける。瞬間、真紅が小さく笑った気がした。
直後、頭の横を横切って、真っ直ぐに矢が駆け抜けた。
「な――ッ!」
ロニーは咄嗟に弓でそれを受ける――鉄弓が、激しい金属音を立てて弾ける。
辛うじて無傷――だが、弦は今の一撃で切れた。その好機を、今度こそ逃さない。爪先に力を込めながら、短刀を下から掬い上げるように滑らせる――。
ロニーは、後ろに跳んで身構える――だが、それに反して、空也は距離を離していた。それと同時に、短刀が投げ放たれる。
身を逸らしながら、ロニーは短刀を避けて、不敵に笑う。
「臆病風に、吹かれたか――ッ!?」
「いいや――命中だ」
空也は笑う。その放った刃の行き先を、見て。
そこにあるのは、真紅が最初に放ち、壁に突き立った矢――ただし、火薬つきの。
短刀が、それに吸い込まれ、火花を散らし――。
噴き上がった爆炎に、ロニーが包まれた。
轟音の中、空也と真紅は頷き合い、踵を返して駆ける。真紅は少しだけ背後を振り返り、黒煙の立ち上るそこを見やる。
「やれたかな……?」
「正直、分からん。だが、今は逃げるのが先決、だな」
「うん……っ! イリヤたちは、大丈夫かな……!?」
「エリカさんと、リヒトさんを信じろ!」
励まし合いながら、駆けて行く――その中で、不意に法螺貝の音が響き渡る。
合図――キグルスに、アウラ様が到着した、ということだ。
城門に向かって二人が駆けて行く。そこには、次々と駆け込んでくる、騎兵たち――その中で、ソユーズの兵たちはその場で膝を折りつつある。
血と黒煙に染まった城砦都市の中で、激しい勝鬨が響き渡った。
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