第7話 静馬とアウラ

「――以上です」


 一つの天幕の中で――静馬は、アウレリアーナに報告を述べていた。

 その場にいるのは、アウレリアーナ、静馬、飛鳥、空也、真紅の五人。

 空也と真紅のことを含めた、全ての内容を聞いた彼女は、深紅の瞳を細めた。二人の異世界からの住民を見つめ、小さな声で労わるように言う。


「ひとまず――異世界へようこそ。そして、再会を祝福するわ。二人とも」

「ありがとうございます――アウラ様」

「クウヤに至っては、シズマを助けてくれて感謝するわ」

「いえ、そんな――自分こそ、静馬さんに助けられてばかりで……」

「手合わせ、したんでしょ?」


 その言葉に、うぐっ、と静馬は言葉を詰まらせた。視線を横に控える飛鳥に向ける。飛鳥は、わざとらしくそっぽを向く――静馬は半眼でつぶやく。


「チクりやがったな。飛鳥」

「報告義務があるので」

「ふふ、相変わらずアスカに尻に敷かれているわね」


 くすり、とアウラは笑みをこぼしながら、空也と視線を合わせた。


「いずれにせよ、協力に感謝するわ。そして、シンクも――異世界から来て、ここの大陸の人々を気に掛けてくれた。同じ統治する者として、礼を言わせていただくわ」

「いえ、私がしたいからしたまで、です。ですが、アウラ様――」

「何かしら?」

「まだ――キグルスは、救われていません」

「――そうね」


 その真紅の言葉は――誰かを想うように、切なげであった。

 空也はその手を握る――分かっている。

 まだ、イリヤたちが、城砦内に残されているのだ。

 アウラは頷きながら、憂いを帯びた視線で息を零す。横目で、控えている静馬に視線を投げかける。


「ソユーズの動きは?」

「目下、キグルス――及び、その東西にある、ケルン、カラムルの二都市に兵力が集中――ウェルネス王国への備えとしているようです」

「兵力は、各五千ずつ――城砦都市ですので、防衛設備も手強く」

「そうね――そして、今、ウェルネス王国の騎士団が動員されているのは、先鋒一万。後詰で三万。加えて、私の率いてきた三千の兵――難しい局面ね」


 アウラはそうつぶやきながら、視線を真紅に向ける。

 真紅は、縋るように彼女を見つめていた。その視線に応えるように、にっこりと微笑みを浮かべた。そして、鋭い視線を静馬と飛鳥に注ぐ。


「シズマ、アスカ、キグルスを三千で陥落させるわ。できるわね?」


「な――ッ!? 正気ですか、殿下ッ!」


 泡を食ったように答えたのは、飛鳥だった。

 視線をすぐに、自分の上司である静馬に向ける――だが、彼は真剣な表情で顎に手を当てて少し思案していた。そして、空也と真紅を見つめて言う。


「仮に――二人の助力があれば、できなくは、ないでしょう」

「――静馬兄さん、とうとう頭がイカれましたか」

「飛鳥、いつも自分が無謀ばっかりしているとはいえ、そこまでストレートにけなされると、すごく、ぐさっと来る」

「――冗談ですよ。兄さん。策が、あるんですね」


 飛鳥は仕方なさそうに眉を下げて笑う。ああ、と静馬は頷いた。


「まずは兵を分ける――二千を投入し、兵站線や隣の城砦との連携を崩す。真紅さん、報告によれば、もうすでにキグルスに食料の備蓄はないんだな?」

「は、はい、屋敷の蔵の備蓄も放出――もう、ないはずです」

「その状況下で、五千の兵に加えて、キグルスの住民がひしめき合っている。すぐに、食料は尽きるはずだ」

「兵糧攻め――なるほど、攻めずに潰すのね」


 アウラは感心したように呟く。そこに、静馬は頷きながら一本指を立てて告げる。


「それに加えてもう一手。内部から、かく乱を仕掛ける。この一押しで大分違ってくると思います――それに関して、適任な人が二名」

「なるほど、そういうことでしたか……領主名代であった真紅さんと、潜入任務にあった空也さんの二人なら……」

「そういうことだ。飛鳥。そして――内部にいる、協力者や王国寄りの人間を助け出せる」


 その真意に気づき、空也は息を呑んだ。真紅も目を見開き――そして、表情を引き締める。


「是非、作戦に加わらせてください!

「もちろん、僕も、です」

「ああ――二人が参加するだけで、成功率が違う。是非、任せたい」


 静馬は目を細めて頷き、アウラの方に視線を送る。彼女は全員を見渡し、はっきりと告げた。


「シズマの作戦で行くわ。シズマ、アスカで細かく立案。クウヤ、シンクはその協力をお願いする――いいわね。みんな」

「了解!」


 全員の意思が、一人の姫騎士の元で合致した瞬間だった。

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