第6話 王女、アウレリアーナ

 その人は、突然、現れた。


 わずかな供回りだけを従え、地平から駆けてくる騎士――陽光を反射し、きらきらと何かが輝いている。その煌めきを伴い、まっしぐらに駆けてくる。

 出迎えに、野営地の外に出た静馬はため息をこぼす。だが、その目つきは限りなく優しい。隣に並ぶ、空也と真紅を見やって告げる。


「あの人が、そうだよ」

「――静馬さん、見間違えなければ、その将軍さん、ほぼ単身で来ていますけど」

「そうだな」

「護衛の人たちも、ぐんぐん引き離されていますね」

「いつものことだ」


 そう言いながら、静馬はもう一つため息をこぼし、前に進み出る。その騎士はぐんぐん近づいてくる――金髪を振り乱し、一生懸命に駆ける、女騎士の姿が。

 間近に近付き、ようやく馬の足を緩める――そして、彼女はひらりと舞い降りた。


「出迎えご苦労さま。シズマ」


 透き通るような声だった。そして、はっと息を呑むような美貌だ。

 西洋人形か、モデルのような芸術を思わせる、すっきりした目鼻立ち。陽の光を溶かしたような金髪が燦然と輝き、柳のような眉の下の宝石のように紅い瞳が細める。

 彼女が、アウレリアーナ――王女さま、なのか。

 それに空也が気圧されていると、彼女は悠然と髪を払いながら微笑み、桃色の唇が開かれる。


「状況は仔細聞いているわ。大変だったわね。シズマ」

「いえ、任務ですので。それと、紹介します。客人の、空也と真紅です」

「ど、どうも……」

「初めまして、殿下……」


 恐縮しながら頭を下げる二人。女騎士は、二人に視線を移して微笑みを浮かべた。


「お初にお目にかかるわ。私は、アウレリアーナ。ウェルネス王国第三王女にて、征東将軍の肩書を持っているわ。静馬から書簡で二人のことは聞いているわ」

「こ、光栄です」

「そんな固くならなくていいわ。シンク」

「――殿下は、もう少し緊張感を持たれた方がいいと思うのですが。護衛を引き離して、一人でここに駆けてくるあたり……」

「もう、お説教はあと。やっと堅苦しい事務から解放されたんだから……」


 そう言いながら、アウレリアーナはそっと静馬に歩み寄り、その手を取る。静馬はわずかに肩を震わせ、空也の方を見ながら慌てて告げる。


「で、殿下、客人の前――」

「二人は信頼できるんでしょ? それよりっ」


 拗ねたようにアウレリアーナは頬を膨らませながら、静馬の胸を小突く――静馬は困ったように頬を掻きながら視線を泳がせる。

 やがて、観念したように、アウレリアーナに言葉を返した。


「分かった。分かったよ――アウラ」

「ふふ、それでいいの。全く、貴方まで肩肘張られたらしんどいわよ」

「それでも、クウヤたちの前ではしっかりして欲しかったんだけど」

「いいじゃない――貴方が認めた人たちなら、信頼できるわ」


 そう言いながら、するりと静馬と腕を組んでしまうアウレリアーナ。身体を密着させ、ご満悦そうににこにこしている――その光景に、空也は呆気にとられた。

 真紅は拍子抜けしつつも、恐る恐る訊ねる。


「あ、あの――アウレリアーナ殿下と静馬さんって、その、お付き合い――」

「ええ、内密だけど、交際しているわ。あと、アウラでいいわよ、シンク」

「――こういう、破天荒な人なんだ……身構えるだけ無駄だぞ」

「もう、シズマはそんなこと言うの?」

「生憎、振り回され続けた人間なので」


 二人は言い合いながらも、仲良さげに野営地の方に足を向けている。腕を組んでいる状況で、出迎えていた周りの騎士も苦笑いだ。

 大体の人は、知っているよう――本当に、内密なのだろうか?

 空也と真紅は思わず顔を見合わせながら、二人の後に続いた。

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