ねむい
清水優輝
第1話
いくら眠いと言っても、今寝たら地球が滅亡してしまう。私のまぶたが閉じている時間だけ太陽は地球から遠ざかる。昨晩、頭から長い触覚をゆらゆら生やした宇宙人と契約してしまったのだから。あまりにうたた寝の多いから、上司から何度も怒られて、部屋で明かりもつけずに膝を抱えて泣いていると、目の前に現れたのだ。そいつは。宇宙人はわたしの悩みを真摯に聞いてくれた。地方から上京してきて友だちもおらず、恋人ももちろんおらず、孤独なわたしの話を聞いてくれたのはその宇宙人だけだったので、涙どころか鼻水まで垂らしておしっこも漏れちゃう勢いで悩みや愚痴を語った。人間から液体が出ることを知らなかったのか宇宙人は超ドン引きしていて、顔面が青ざめていた。いや、そもそもあいつは緑色の皮膚をしていた。宇宙人が渡してくれたティッシュで鼻を噛むと、少し落ち着いてわたしは宇宙人に聞いたんだ「あれ、もしかしてナメック星人ですか?」と。でも、宇宙人はそんなの知らないと首を横に振った。まあ、人間の形はしていなくて、地球人の言葉で言えば中型犬に近い見た目をしていた。違うところといえば尻尾が足と同じ数あったくらい。毛が無くてたぶん触ったらぬめぬめしていたと思う。ラブホテルで買ったローションに似てて、ひとりで笑ってたら宇宙人に思考盗聴されてスリッパで頭を殴られた。緑色が赤くなってキモい肌色になっていた。それを指差して笑うと今度こそ宇宙人は怒って帰ってしまいそうだったから、きゅうりで呼び止めて、なんとか話をしたのだ。宇宙人はどうやら悩める地球人を救うためにやってきたキリスト顔負けの慈悲深い心の持ち主だった。とはいえ、願いはひとつしか叶えてくれないらしく、上司のワキガがつらいとか父親からセクハラされるとかそういうのよりも、今すぐに解決しないといけないことを相談した。そう、日中、仕事の間に眠らないようにしてくれと。そうしたら宇宙人はわたしのまぶたと太陽と地球に力関係を結びつけてしまったのだ!人間は責任を負うと何でも上手にやれるらしい。短大出て適当な会社の「おふぃすれでぃー」のわたしにまさか、地球の存続を任せるなんて頭がおかしい、きっと全部悪い夢だと思ってその晩はメイクも落とさず寝たのだけど、どうして、次の日起きたら地球は極寒で、みんな大パニック。ああ、どうしよう、わたしのせいだわと、お目目に目薬をさして出社したその頃にはもういつもの太陽と地球の距離に戻っていてああ、良かった。良かった、宇宙人は嘘じゃなかったしわたしは地球を守る使命を持って生きていくのだわと思う。でも、夜はどうやって寝たらいいのだろう。宇宙人に聞けばよかった。精神と時の部屋にでも連れ込んでくれるのかしら。毎日毎日客からつまらない電話が鳴ってきて、毎日毎日わたしは同じセリフをくりかえす。「お電話ありがとうございます。株式会社××でございます。」「××さまですねいつもお世話になっております。」「××はただいま外出しております。代わりに用件お伝え致しますがいかがなさいますか」「かしこまりました。失礼いたします。」今日はこれで16回目。ああねむい。まぶたが重たく重たくなってくる。でも今日のわたしはいつもと違う、太陽を、地球を守るのよ。そして地球上のなんか、環境活動してるすごい人とかに地球を守ってくれてありがとう。君は世界のヒーローさ!そして美味しいビールとかもらう。こんな想像力が貧弱で悲しいのだけど。そんなこんなで眠ることなく定時を迎えて荷物を片付けていると上司がやってきて、今日中に終わらせないといけない仕事があると私に大量の紙とホチキスを わたしてくる。ああ、もういいや。今すぐここで眠って地球を終わらせようか。みんなで死のうねおやすみなさい。
ねむい 清水優輝 @shimizu_yuuki7
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