第2話 やめろ!

まずは、まだ自分が眠っており夢を見ているのでは、と疑った。

ありきたりだが、僕は自分の頬を引っ張ってみた。

ちゃんと痛みはあった。


次に疑ったのは、何らかの脳の障害が起きており、変な幻覚を見てしまってる、ということだ。

これは自分自身では診断できないため、専門医に見てもらう必要がある。

僕は休日診療がある心療内科・精神科をスマホで調べることにした。

幸い隣の駅の駅近くに、休日も見てくれる心療内科があった。

電話で予約を受け付けている、ということなので電話をかけてみた。


「お電話ありがとうございます。○△クリニックです」

「診療の予約をしたいのですが」

「どのような症状でしょうか?」

「幻覚を見ているようなんです」

「その症状はいつから続いていますでしょうか?」

「えっと、今日の朝からです」

「同様の症状で今まで心療内科・精神科にかかったことはございますか?」

「ありません」

「その他に何か身体的な症状は出ていませんか?例えばマヒがあったり、ろれつが回らないとか」

「特にそういうのは、無いと思います」

「分かりました。今日でしたら11時からと、18時からが空いていますが」


一刻も早く観てほしかったので、僕は


「11時からでよろしくお願いいたします」


と答えた。


「かしこまりました。それでは、本日11時から、でご予約いたします。保険証を忘れずにお持ちください」

「わかりました」


心療内科や精神科はなかなか予約が取れない、と鬱病から復帰した同僚から聞いていたので少し身構えていたが、どうやらすぐに見てもらえるらしい。

一刻も早くこんな不気味な状況から開放されたかった僕は、とりあえずすぐに見てもらえそうでひと安心した。

外出用の服に着替えると、鏡の前で見た目を確認した。

特に尻が無いのが他人にバレないかを、鏡の前で念入りに確認した。

感覚はないが、ズボンはちゃんと尻の曲線を描いており、特に外見上の違和感は無かった。


尻が無くなったのは幻覚だと思っているにも関わらず、尻が無いことを隠そうとするのは時間の無駄だと気づいたので、僕は家をさっさと家を出て病院へと向かうことにした。

いつもよりも念入りに窓の戸締まりや空調を確認した後、扉の鍵を開けてマンションのドアを開けた。


薄暗い。


今は昼前で、天気も晴れだったはずだが、まるで空が積雲に覆われているような薄暗さである。

不審に思いながら階段をおり、マンションの入り口を出ると、外では異様な光景が広がっていた。


無数の尻が、人間を襲っていたのだ。

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消えてしまった僕の尻 どまにし @SpySigismund

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