消えてしまった僕の尻
どまにし
第1章
第1話 無くなった……
おかしな夢を見た。
尻に話しかけられたのだ。
夢というのは非現実的なものだというが、ここまで変な夢は初めてだった。
「今までお世話になりました」
夢の中で尻は僕に言った。
「どういう風の吹き回しだ?」
思わず尻相手に真面目に聞いてしまった。
「もうあなたの尻でいることに疲れました」
「そんなことを言われても困る。明日から俺はどうやって排泄すればいいんだ」
「知りません。ご自分でなんとかなさってください」
「待ってくれ、やり直させてくれ! 頼む! 戻ってきてくれ!!」
「さようなら」
そう言うと、尻は虚空に消えてしまった。
非現実的な状況だったが、僕は何の疑問も持つことなく、まるで恋人から突然三行半をつきつけられたかのように、涙を流して尻に帰ってくるよう何度も懇願していた。
目覚めた際、枕を改めて見ると、枕が濡れていた。
夢の中の僕は、尻が無くなってしまったことがよほど悲しかったらしい。
尻ごときに本気で泣くなんて。
枕を眺めながら、僕は思わず笑ってしまった。
伸びをして寝起きで少し強張った身体をほぐし寝室をあとにし、僕は朝食の準備をすることにした。
今日は休日で特に予定もなかったはずだが、平日とほぼ同じ時刻に目を覚ましたので、時間は割とあった。少し朝食もゆっくり目に取るつもりで平日よりも多めに作った僕は、なんとなくテレビをつけて席に座った。
何か尻のあたりがひやっとする。
まさかこの歳でおねしょをしたのだろうか、それとも飲み物が椅子にこぼれていた?あるいは何らかの液体で椅子が汚れていたのだろうか?
そんなことを考えながら僕は立ち上がり、椅子の上を確認した。
そこには見慣れたいつもの椅子の座面があり、飲み物や醤油、尿のシミ等の汚れは見当たらなかった。
おかしいとは思ったが、今は初冬、もしかしたら椅子が冷えていたのかもしれないと思い、僕はまた椅子に座り直した。
まだ尻のあたりがひやっとする感じがしたが、腹も減ってきており、早く何か食べたかった僕は、気にせず朝食を取ることにした。
朝からガッツリ食べた僕は、朝の重要な儀式の場、トイレに向かった。
ズボンをおろし、便座に座ろうとしたところで、僕は自分の身体に起こった重大な異変に気がついた。
尻が無くなっていたのである。
より正確には、へその下からふとももの上まで、ちょうどボクサーパンツで隠れる場所付近が透明になっており、向こうが透けて見えてしまっていたのだ。
「なんだコレ!」
思わず反射的に便座から立ち上がったあと、恐る恐る透けている場所を手で触ってみる。
尻の側には触られた感触はなかったが、手は透明になっている部分の何かに触れた。
透明な部分をあちこち触ってみて分かったのは、一応透明な部分には尻らしいものが存在しているのだが、まるでマネキンのようにツルツルで固く、慣れ親しんだ息子や排泄のための穴は空いていない、ということだ。
「どういうことだよ……」
僕は途方にくれてしまった。
そして気がついた。
朝からガッツリ食べてはいたが、特に便意は催していないことに。
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