第7話 残された者たち
御前儀式の礼が未遂に終わってから一ヶ月と少しが経過した。
夏の日差しが照り付け、辺りはセミの鳴き声に包まれている。
世の中でお盆と言われる時期。僕と真音は、二人でミカ姉ちゃんのお墓の掃除にやって来ていた。
「ふう。こんなものか」
「お疲れ様。颯太」
真音が、タオルと水筒を渡してくる。
「ありがとう。普段から掃除をしていたから、そんなに大変ってほどでもなかったな」
「うん。颯太のお父さんと私のお母さんも見に来てくれているしね」
御前儀式の礼が未遂に終わった後。僕と真音から、ミカ姉ちゃんが隠していた古文書などを見せた。さらに僕からは、ミカ姉ちゃんから言づかったことを伝えた。
もしかしたら、ミカ姉ちゃんはそこまですることを望んではいなかったかもしれないけど、僕は今後のためにもこのことはここで、きちんと清算しておくべきだと思ったから、あえて言わせてもらった。
もし、言いたいことがあるようなら、僕の夢に出て来て文句を言ってもらって構わない。
「それにしても、あの時は驚いた」
「あの時って?」
「御前儀式の礼の時に、僕たちの前にいきなり飛び出してきたときのことだよ」
「あの時は必死だったから。もしかしたら、颯太がそのまま突き落とされるんじゃないかと思って。結局、それは私の早とちりだったんだけど」
父さんは、あの時、僕に手を伸ばしてきたけれど、それは、突き落とすためではなく、むしろ、こちらに引き戻すために手を伸ばそうとした、ということが、あの後判明した。
父さんたちも、ぎりぎりで僕が気を変えるかもしれない。と、考えていたらしく、その時は、僕の判断に任せようと話し合っていたという。
「何にせよ、僕たちは生きている。僕たちは残された者として、これからどうすべきかを考えていかなきゃいけないんだ」
「そうだね。でも……」
真音は、僕の腕に腕を絡ませ、ぎゅっと手を握った。
「あなたとならきっと大丈夫。私は、いつまでも、颯太と一緒だから」
「うん」
僕たちは、同じ空を見上げ、同じことを想う。
僕が、夢の中で雨の中、空を駆けることはないのかもしれない。
けれど、今、隣にいる人のためであれば、再び雨の中、空を駆けることになったとしても、僕は彼女のために何度となく、空を目指すだろう。
「きっと、大丈夫だ」
「えっ?」
「僕たちの逢瀬を阻む雨と天の川なんて、僕たちにはあってないようなものだ」
真音は、僕の言葉に一瞬ポカンとした顔をするが、その言葉の意味を何となく理解したのか。
「そうだね」
真音は、にっこりと微笑み、僕の肩に頭を預ける。
僕は、こんな平穏な日々が続きますようにと、今は見えない星にそっと祈りを捧げるのだった。
SkyDriver in the Rain 築家遊依那 @yuinakizuka
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